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「見えない存在」に目を向けよう 【サヘル・ローズ✕リアルワールド】

 まだ制服の袖が少し大きく見える、小さな肩。

 その肩にどれほどの痛みや孤独が重ねられてきたのかを、私たちは知らない。

 東京都狛江市にある女子少年院「愛光女子学園」を訪れた日、私は園内に満ちる静けさの中に、言葉にならない思いがいくつも揺れているのを感じた。ここには、何かしらの理由で社会からはじかれ、それてしまった少女たちがいる。

 でもその多くは、ただ「はじかれたり・それた」わけじゃない。暴力、貧困、家庭崩壊、周囲の無理解。そうした環境に押し出されるように、ここにたどり着いた子も少なくない。

 個人的には「法を犯した」というよりも、「守ってもらえなかった」少女たちがいるように感じる。

 今回の訪問の目的は、ファッションブランド「Shinzone」が始めた教育プログラム「Woman’s Fashion Education」の第1弾として、愛光女子学園の少女たちが手編みしたレースを使用した子ども服や帽子などが制作され、それらの報告を兼ねた振り返り授業を見学することだった。

 最初は静けさに包まれた部屋で丁寧に説明がされていく。そして、パンフレットと完成した実物の子ども服(写真)を少女たちに見せると、「かわいい」と思わず声が漏(あふ)れ、笑顔が溢れていく。

実物の子ども服(写真:端 裕人 HIROTO HATA)

 実際に1人の少女が制作中のレースを見せてくれた。

 ふと心で感じたのは、小さな糸が編み込まれるたびに、少女たちの手元にある希望や集中が静かに形になっていくということ。誰かの「役に立つ」という感覚や、自分自身の手で「美しいもの」を生み出せるという自信はとても必要ではないでしょうか。

 日本には現在、42の少年院がある。そのうち女子の少年院はわずか九つ。対象年齢は12歳からおおむね20歳未満とお聞きした。数字だけ見れば少ないように一瞬感じました。でも、お話をいろいろ伺っていくと、この数字には入っていないが、多くの「語られない物語」があるのだと。

 どうしても世間の目は、「更生」という言葉に対して、一方的なイメージを持ってしまうかもしれません。

 でも本当は傷ついた子どもたちが再び社会とつながるには、「教育」だけではなく「寄り添う」ことが最も重要ではないでしょうか。

 今回のShinzoneさんの試みは、「ただの服づくり」ではなく、「ファッション」という表現を通して、「社会からこぼれ落ちた命」に光を当てているのだと感じました。

 彼女たちは、「犯罪者」というタグを付けて語られる前に、「1人の少女」であり、「誰かの娘」でもあり、夢を抱く権利を持った「人」でもあるのです。

 人は誰でも過ちを犯し、間違えることがあります。けれど、過ちや間違いから生まれる希望もまたあると信じたいです。

 レースの一目一目に込められた時間と想(おも)い、いつかは、手に取る誰かの心を癒していく日がくると感じています。

 今の私たちに必要なこととして、「見えない存在」に目を向けていく優しさではないでしょうか。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 16からの転載】

 

サヘル・ローズ 俳優・タレント・人権活動家。1985年イラン生まれ。幼少時代は孤児院で生活し、8歳で養母とともに来日。2020年にアメリカで国際人権活動家賞を受賞。