「アーカイブ」をテーマに作品づくりを行うワークショップが藝大で開催されており、数カ月にわたって参加している。
主軸となる目的は、「藝大図書館で一度も借りられていない書籍の活用」。参加学生が各々(おのおの)に貸し出し履歴の無い本を探し出し、その本からインスピレーションを受け何か作品を作ってみようという取り組みだ。
集まった本は、風景の写真集からGHQ(連合国軍総司令部)による日本教育の調査記録、ヘビメタのレコードジャケットをひたすら集めたフランスの同人誌などさまざま。
これらの本から作品を作る、と言われても漠然としている。自然と「アーカイブとは?」というところから話が始まった。こういう作品づくりの場では、雑談を交わしてお互いのバックグラウンドや考えを共有し、話し合いの空間を色々な感覚、記憶、知識で満たして、その中から創作のヒントを手繰り寄せていく。
ある人は「近所の蕎麦(そば)屋のタヌキを撮り溜(た)めてるんです」と言って、信楽焼のタヌキばかり数年にわたって撮り続けた写真フォルダを見せてくれた。日によってなんとなくタヌキの表情が違う。「いいな」と思った日にタヌキを撮り続け、どこに発表するわけでもなくスマホに残しているのだという。スクロールすると、すっとぼけたタヌキの顔がパラパラ漫画のように何百枚も映し出された。
それってまさにアーカイブだね、という話をしていると、別の人からも「僕も実は撮り溜めているものがあって」と声が上がった。近所の公園に描かれた「Free Palestine」の落書き。都内の色々な場所で見かけるから、おそらく誰か1人の人が描き続けているのではないか。その落書きを、犬の散歩で公園を通るたび毎日1枚撮っているのだという。

落書きは陽に晒(さら)され、今はもうかすれてほとんど字が読めない。はじめて見る人には何が書いてあるかわからない、でも自分はずっと見てきたから知っている。「Free Palestine」が薄れていく様子を、ただ毎日観測しているのだ、とその人は落ち着いた声で語った。
こういうアーカイブって、「今日はじめられる狂気」だね、と誰かが言う。1枚だけでは普通だけれど、それを継続して重ねていくと、何か執念めいた凄(すご)みが出てくる。
でもきっと、「観測する」ってとても愛情深い人間の営みだ。誰かがずっと見ていてくれることで、救われる物の魂がある気がする。
日々の片隅にある風景を、誰に言うでもなくアーカイブしている人がいる。あなたは何をアーカイブしていますか、と周りの人に問うてみたくなった。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.8からの転載】

かにさされ・あやこ お笑い芸人・ロボットエンジニア。1994年神奈川県出身。早稲田大学文化構想学部卒業。人型ロボット「Pepper(ペッパー)」のアプリ開発などに携わる一方で、日本の伝統音楽「雅楽」を演奏し雅楽器の笙(しょう)を使ったネタで芸人として活動している。「R-1ぐらんぷり2018」決勝、「笑点特大号」などの番組に出演。2022年東京藝術大学邦楽科に進学。









