今、ロンドンにいます。前回はドイツのハンブルクから原稿を書いていましたが、今回はイギリス。ハイパージャパンという日本フェスで雅楽を演奏し、2日ほど観光して今日帰路に就くところです。
イギリスではほとんどの美術館・博物館が無料。子どもから大人まで気軽にアートを楽しんでいます。円安の今、私もずいぶん助けられました。
ダヴィンチの「岩窟の聖母」、ミレーの「オフィーリア」、そしてデュシャンの「泉」などなど、古きから現代美術まで目白押し。さすがは陽の沈まぬ国。世界中の美術品が(良くも悪くも)集まっています。
ミュージアム以外で唯一立ち寄ったのが、バラマーケット。日本で言う築地市場のような、活気のあるマーケットです。美味しそうな屋台も沢山出ているので、美術館に行く前の腹ごしらえをしようと思っていました。
そこで出会ってしまったのです。キウィウィに。

まずはキウィウィについてご紹介させてください。彼は、その、なんていうか・・・見ての通りです。黄色い体に無数のトゲ。ナマコのようでもあるし、ヒエロニムス・ボスの絵に登場する地獄の怪物のようでもある。4.4ポンド。およそ900円でした。
キウィウィという名前は私が付けました。果物屋で名前を聞いたのですが、カカポだか、河内だか、なんと言っていたか忘れてしまったのでキウィウィと呼ぶことにしたのです。
店員は彼について、「半分に切って、スプーンで食べろ」と言いました。その夜ホテルに帰り、私は部屋に唯一あったスプーン1本を片手にしばしキウィウィと見つめ合いました。捨て犬のような姿。これがフィクションの世界なら、キウィウィとボールで遊んだり、世界を旅して回っていたことでしょう。しかし現実のキウィウィは動けませんし、日本に連れ帰ろうものなら検疫に引っかかってしまいます。
ごめんね、と言って私はキウィウィの体にスプーンを突き立てました。キウィウィの皮膚は固く、尖ったトゲが抵抗するように私の手を刺しました。何度かの苦闘の末、ようやくスプーンがズブリとキウィウィの体に入ると、無数の種が溢れて出てきました。カエルの卵のような、ドゥルンとしたゼリー状のものに包まれた種が、私の指の隙間からこぼれました。
キウィウィを半分に割ると、もう彼はただの果物でした。酸っぱいキュウリのような味で、とても美味しいとは思えませんでした。薄青い無数の種が、ホテルのテーブルを濡らしていました。

カニササレアヤコ(かにさされ・あやこ) お笑い芸人・ロボットエンジニア。1994年神奈川県出身。早稲田大学文化構想学部卒業。人型ロボット「Pepper(ペッパー)」のアプリ開発などに携わる一方で、日本の伝統音楽「雅楽」を演奏し雅楽器の笙(しょう)を使ったネタで芸人として活動している。「R-1ぐらんぷり2018」決勝、「笑点特大号」などの番組に出演。2026年東京藝術大学邦楽科を卒業。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.31からの転載】







