身近な食べものが、どこで何からつくられ、どんな役割を果たしているのか学ぶため、岐阜市の小学校が食品企業の出前授業を取り入れている。幅広くわくわく学べると、父兄たちにも大好評だ。
▽「変身」する大豆
11月10日午前、岐阜市立長良西小学校(服部晃幸校長)の家庭料教室に、3年2組の児童34人が集まってきた。10時半からの3時間目の授業は、豆乳を学ぶ。担任の教諭から「豆乳博士登場」と紹介されたのはキッコーマンソイフーズのマーケティング本部企画開発部の市岡莉奈さんだ。
授業は、同社が用意した原料の大豆の粒を実際に触ることから始まった。「固い」、「ごわごわしている」と感想を語る児童は、乾燥して色が変わる前は枝豆と同じだと習って驚き、粉にすると「きな粉」になると聞くと「わらび餅に付いてくる」と応じた。
豆乳に酢を少量混ぜる実験を数人の班ごとに実施、牛乳のような豆乳が固まる様子に、児童は「変身、変身」と大はしゃぎ。豆腐の原料であることや、微生物による発酵でみそ、納豆、しょうゆなどに姿を変えることも学んだ。
45分の短い授業の中で、ビデオで北米から輸入された大豆が工場で豆乳に加工される工程、さらに豆乳を使ってさまざまな飲料や卵スープやグラタンなど加工食品に姿を変えていくことを習い、市岡「博士」は、大豆が「畑の肉」と呼ばれるほど栄養豊富なこと、特に肉と同じタンパク質が多く含まれていることを説明し、地球環境の保全や持続可能な開発目標(SDGs)にも触れた。
児童らは事前学習していて、大豆のレシピのポスターや「キッコーマン大好き」などのメッセージを教室内に張り出していた。授業を支援したキッコーマンのスタッフは「とても驚いたしうれしかった」感動を隠せない。
児童は「豆乳を使って自宅でもいろいろな料理をつくれることが分かったので家でつくりたい」「酢を加えるとトロトロになるのに驚いた」「工場でまったく違う形に変身するんだ」と、それぞれ感想を述べ、最後に「ありがとーにゅう!」と御礼を斉唱した。
▽食育基本法がきっかけ
同社が、出前授業を始めたのは、2005年。食育基本法(2005年7月施行)の制定にさきがけて、キッコーマンの食育のあり方について検討を繰り返し、2005年5月に「食育宣言」をまとめ、「おいしい記憶をつくりたい。」をスローガンに、通常の工場見学だけでなく、実際にしょうゆづくりを体験できる「しょうゆづくり体験コース(小学校対象)」や、出前授業「キッコーマンしょうゆ塾(小学校対象)」を始めた。現在は、「トマト塾」など製品ごとの出前授業も開いている。
同社が実施する作文コンテストに毎年岐阜市の小学校が積極的に応募しており、岐阜県瑞穂市にグループ会社のキッコーマンソイフーズ株式会社(本社・東京都港区西新橋2-1-1)の岐阜工場が立地する関係で、出前授業を岐阜市教育委員会に提案、昨年に長良西小が選ばれた。児童や父兄からも好評だったため継続して開催を決めた。
同社は「児童に教えることで、社員が教わることも多い」(中島みどり経営企画室 食と健康 推進担当部長)と出前授業のメリットを説明する。自社や製品のことを子どもに説明するためには十分な準備が必要なのと、子どもからの意外な視点や感想が刺激になる。「なぜキッコーマンで働くのか」「この仕事をしていて良かった」「もっと学んで上手に説明したい」といった自覚や気づきにつながる。
出前授業で使う教育プログラムは、同社内の組織横断で20~30歳台中心に10数名のメンバーで練り上げ、現場の教職員にも監修を依頼している。授業当日も、発言を求めて挙手する児童を指名するのは、担任の教員に任せ、児童の回答を適切にフォローできるよう、細心の注意を払う。
学校側のメリットは「企業と学校の交流により新たな視点が入る。外から人が来てくれるだけで子どもたちはうれしい。授業に幅広い内容が盛り込まれ、国語科・理科・社会科・家庭科・総合学習などほかの科目への興味や学びにつながる、広がる」と説明する。
キッコーマンは「工場の現場からの社員も参加する形で充実させたい」(亀井淳一マーケティング本部企画開発部長)と、出前授業の質を向上し、回数を増やしていく方針だ。
(石井勇人共同通信アグリラボ編集長)