はばたけラボ

【コラム】卵子とおっぱいは食事で決まる 75歳の産科医が日本の妊産婦に伝えたいこと

赤ちゃん健診中の昇幹夫医師。
赤ちゃん健診中の昇幹夫医師。

 弁当作りを通じて子どもたちを育てる取り組み「子どもが作る弁当の日」にかかわる大人たちが、自炊や子育てを取り巻く状況を見つめる連載コラム。毎月10人以上の赤ちゃんを各地で取り上げている現役産科医の昇幹夫(のぼり・みきお)が「日本の食」の「食い改め」を訴える——。

「胎児の体は100%卵子から作られています」

 もう20年ほど、月に10日はどこかの当直室で寝ています。医師になって51年。食生活の悪化を感じて、日々「食い改める話」をしています。

 最初に肝に銘じてほしいことはただ一つ、「胎児の体は100%卵子からだけ作られている」ことに尽きます。これだけ理解すれば、いつかママになりたいという女性なら何を食べたらいいか、言わなくても分かりますよね。でも意外なことに、こんな大切なことを誰からも聞いていないのです。

 私は、自分が赤ちゃんを取り上げたママに毎回、その場で最初に話しています。 「あなたはお料理するとき味見するでしょう? 同じように、赤ちゃんにおっぱいをあげる前に、自分のおっぱいを味見しなさい。食べたものが即、出るんだよ」

 甘いジュースを飲んだ途端、すぐに甘く感じます。脂っこいものを食べた後は、すごく脂っこく感じます。おっぱいは、白色の血液なのです。

 食事のときに「パン」を選ぶと、バター、ジャム、チーズ、ポタージュなど、カタカナのオンパレードになります。でも、「ご飯」を選ぶと、ひらがな食材の多い和食になります。どちらが食品添加物を多く含むでしょうか。そこまで言えば、お分かりですね。献立に迷った時は、食材はとりあえず「ひらがな」と覚えておくと和食になり、赤ちゃんが好んで飲む味になります。

 ひと昔前の日本の食は、ひらがな和食ばかりでした。明治期に、東京医学校(現東京大学医学部)に招聘(しょうへい)されたドイツのエルビン・フォン・ベルツ博士(1849~1913年)は、日本人の食生活をつぶさに調査研究し、「これほど母乳の出る女性たちは見たことがない」と驚嘆しています。すっかり日本に惚れ込んで、日本女性を妻に迎えたほどです。欧米に比べて確かに乳房は小さいが、乳飲み子のいる他の女性から乳をもらう「もらい乳」という習慣もあるくらい、お乳が豊富な日本人がごく普通だったのです。

 第2次大戦後に、日本人の食生活は劇的に変化しました。ドイツもイタリアも戦争には負けましたが、日本ほど食生活に大きな変化はありません。イタリアなどは国民一人一人が、頑固なくらい伝統食を大切にしています。自分たちの食生活を他国にとやかく言われたくないのです。

 なぜ、日本だけがこんなに変わったのでしょうか。1978年に、「食卓のかげの星条旗~米と麦の戦後史~」(NHK)というドキュメンタリー番組が、繰り返し放映されました。番組タイトルが意味するように、アメリカは、きわめて政治的な意図でもって、日本をターゲットにした巧妙な米国農産物の売り込み作戦を行ったのです。

 1953年に朝鮮戦争が終わると、アメリカの農産物、とくに小麦粉は腐りやすいので、余剰農産物を買ってもらおうと、農村出身のアイゼンハワー大統領(任期1953~61年)は必死でした。日本の農林省(現農林水産省)らにも、「栄養改善運動」と称して「ご飯よりパン」というキャンペーンを徹底的に植え付けました。

 1970年代になり、M社が日本に上陸したとき、日本支社長がまったく同じことを言いました。 「小さいときにこの味を覚えさせたら、みそやしょうゆを忘れて一生食べてくれるので売り上げが上がる!」
 あなた方が今のような食生活になったのは、実はこんな政治的な思惑があったのです。

 今や子どもにまで肥満や生活習慣病が広がったのも、これが原因だと思います。ご飯、できれば分づき米など、あまり精白しない米を主食にし、季節の野菜、そして煮干しやコンブ、しいたけなどでしっかりだしをとったみそ汁、乳酸発酵している漬物、それに魚介類や海藻など、日本人の体質に合った和食中心の食事にすれば、乳幼児の健康は間違いなく改善します。

 「旬」という字は「上旬、中旬、下旬」というとおり10日間です。「旬」に「竹かんむり」がつくのが「筍(たけのこ)」。つまり、10日過ぎたら「旬」ではないのです。春の旬は「芽」、夏の旬は「葉」、秋の旬は「実」、冬の旬は「根」と覚えたらいいでしょう。

 春の旬のものには「苦み」があります。でも天ぷらにすると食べやすい。清少納言も『枕草子』で「春はあげもの(あけぼの)」と言いましたね。春は「揚げ物」、夏は「酢の物」、秋は「果物」、冬は「鍋物」なのです。
 最後にもう一度、「胎児の体は100%卵子でできている」をぜひ思い出してくださいね。

昇幹夫
 1947年鹿児島生まれ。九州大学医学部卒業。麻酔科医・産婦人科医。「日本笑い学会」副会長。産婦人科診療をしながら、笑いの医学的効用を研究。「元気で長生き研究所」所長として全国で講演活動中。著書に最新の 『泣いて生まれて笑って逝こう』(春陽堂書店)、『笑って長生き』(大月書店)、『笑いは心と脳の処方せん』(二見レインボー文庫)他多数。

泣いて生まれて笑って逝こう (改訂版)
泣いて生まれて笑って逝こう (改訂版)

 #「弁当の日」応援プロジェクト は「弁当の日」の実践を通じて、健全な次世代育成と持続可能な社会の構築を目指しています。より多くの方に「弁当の日」の取り組みを知っていただき、一人でも多くの子どもたちに「弁当の日」を経験してほしいと考え、キッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、ハウス食品グループ本社、雪印メグミルク、アートネイチャー、東京農業大学、グリーン・シップとともにさまざまな活動を行っています。