おでかけ

ボーっとする春の幸せ 伊予灘の旅 【あなたをエスコート 幸せになる旅コラム#9】

「青春18きっぷ」のポスターに3年連続で採用された下灘駅
「青春18きっぷ」のポスターに3年連続で採用された下灘駅

 世界の姿を変えたコロナ禍もようやく出口が見えてきたように感じます。これまでの閉じこもりがちな生活から解放され、以前のような慌ただしい日々がまた始まろうとしています。3年にもおよぶコロナ禍で、すっかり体力が落ちてしまいました。活動的な日常が戻ると疲れやすくなってしまった自分に驚いています。おかしなもので、今度はゆっくりボーっとしたくなってきました。

 のんびりすることを目的とした旅行を計画するため、自らが所有する旅の資料を眺めます。すると、JR予讃線の下灘駅が、JRが発売している「青春18きっぷ」の歴代のポスターに、1998年から3年連続で採用されていることに気付きました。

 香川県の高松から、愛媛県の松山を経由して宇和島を結ぶ予讃線。下灘駅はなにもない、ただ目の前に海が広がる予讃線の無人駅です。発着する列車も1時間に1本あるかどうか。駅のベンチに座り、ボーっとするには最高の駅です。早速、私は愛媛へ飛び、松山から普通列車に乗って下灘駅へと向かいました。

 あれ?下灘駅には結構な数の観光客がいます。ポスターで紹介されたのは20年以上も前のことですが、下灘駅を訪れる旅人は後を絶たないそうです。人気の観光特急「伊予灘ものがたり」も乗客の写真撮影タイムとして、下灘駅になんと約10分間も停車するので、なにもない無人駅はなにかと賑わっていました。

人気の観光特急「伊予灘ものがたり」
人気の観光特急「伊予灘ものがたり」

 気を取り直して、駅から海辺を散策することに。歩くこと数分、スタジオジブリ制作の映画『千と千尋の神隠し』を連想させる、海に続く線路(のようなもの)を見つけることができました。海に消える線路を眺め、ようやく「ボーっと」の始まりです。

下灘駅の近くにある「海に続く線路」
下灘駅の近くにある「海に続く線路」

 せっかく松山駅から予讃線に乗ったので、さらに先へ進むことにしました。まずは伊予長浜駅で途中下車。橋桁が跳ね上がる可動橋の長浜大橋を見学します。近代に架設された国内の可動橋としては唯一現役のものだそうです。

跳ね上げ式可動橋の長浜大橋(赤橋)
跳ね上げ式可動橋の長浜大橋(赤橋)

 再び予讃線に乗り、大洲駅へ向かいます。予讃線は伊予長浜駅から海を離れ、肱川(ひじかわ)に沿って内陸に進路を変えます。高台に建つ大洲城を背景に、肱川を渡る予讃線の特急列車を写真に収めました。

 今夜の宿は、予讃線の八幡浜駅周辺で探すことに。八幡浜は、北は伊予灘の瀬戸内海、西は宇和海に面し、豊後水道を挟んで九州と対しています。四国有数の規模を誇る魚市場があることから「伊予の大阪」と呼ばれています。

大洲城を背に肱川の鉄橋を渡る特急「宇和海」
大洲城を背に肱川の鉄橋を渡る特急「宇和海」

 愛媛県のご当地グルメとして名高い「鯛めし」。タイを丸ごと一匹お米と一緒に炊き込むものと、生卵が入った冷たいだし汁にタイの刺し身を入れ、味が染み込んだらご飯にかけていただくものと2種類あります。

 私は「鯛めし」が好物で、特に冷たい方がお気に入りなのですが、八幡浜ではタイではなく、豊後水道で取れたアジを使った「鯵めし」があります。「鯛めし」同様に冷たいだし汁でいただくのですが、とにかく究極においしいんです。旅が仕事の私が掲げる「旅先でいただくお気に入りグルメ」で、トップ3に入る逸品です。

八幡浜の郷土料理「鯵めし」
八幡浜の郷土料理「鯵めし」

 ホテルのベッドで横になり、ボーっとした昼間の記憶は薄くなり、結局はおいしい食事で元気になる自分に気付いた旅でした。

 

【旅人略歴】

エスコートK・・・数十年前、旅程管理主任者の1期生として、国内外のツアーをエスコート。現在は生活情報誌の編集長だが、旅の取材だけは自らのカメラを手に、こっそりとデスクを離れ出掛けている。