NHKで放送中の大河ドラマ「どうする家康」。5月14日に放送された第18回「真・三方ヶ原合戦」では、前回その結果だけが描かれた主人公・徳川家康(松本潤)と武田信玄(阿部寛)の決戦「三方ヶ原の戦い」の詳細が明らかになった。
本拠地・浜松城を素通りした武田軍を追撃した徳川軍だったが、三方ヶ原で待ち伏せに遭い、惨敗。ちりぢりになって敗走する中、本多忠真(波岡一喜)をはじめ、多くの家臣が命を落とす。そして救援に来た夏目広次(甲本雅裕)も、家康の身代わりとなって壮絶な最期を遂げた。
広次の最期は、家臣の中で唯一「家康が名前を覚えられない」という、これまで幾度となく繰り返されてきたやりとりを、単なるネタではなく、伏線として見事に回収。幼少期の家康(=竹千代)とのかかわりを踏まえ、「吉信」から「広次」に改名していたことまでが明かされた。
さらに、それが家康が名前を覚えられなかった理由に結びついた上で、最後は家康を救うために散っていく。
序盤からここまで夏目の「名前間違い」を引っ張ってきた古沢良太のさえわたった脚本と俳優陣の熱演は、筆者を含む多数の視聴者をうならせたに違いない。だが、クライマックスとなったこの場面を一際印象深くしていたのが、情感あふれる演出だ。
家康が脱いだかっちゅうを身に着けると、「徳川三河守家康は、ここにおるぞ!」と叫んで飛び出し、襲いかかってきた武田兵の刃に倒れる広次。
その姿をスローモーションで捉えた映像と交互に、これまでの広次と家康の名前をめぐるやり取りの回想シーンを挿入。さらにその最期を、静かに舞い散る雪のはかなさと美しさが際立たせ、音楽が格調高く彩る…。見る者の心を揺さぶるその演出は印象的だった。
同時に、これを見て思い出したのが、第11回「信玄との密約」だ。この回では家康の妻・瀬名(有村架純)の幼なじみである田鶴(関水渚)が最期を迎えた。家康や瀬名の降伏勧告に応じることなく、滅びゆく今川家に最後まで忠義を尽くし、女ながらに引間城主として包囲する徳川軍と戦う田鶴。
だが最後は、自らよろいをまとって出陣し、華々しく散っていった。このときも、瀬名と仲むつまじく過ごした過去の姿を交えつつ、田鶴の最期を小雪の舞い散る風景の中にスローモーションを駆使して描いて見せた。最期の時を彩る回想と雪と音楽とスローモーション。その演出は、広次の最期と重なる。