エンタメ

「光る君へ」第六回「二人の才女」まひろと道長を待ち受ける波乱の予感【大河ドラマコラム】

「私は道長さまから遠ざからなければならない。そのためには、何かをしなければ。この命に、使命を持たせなければ」

「光る君へ」(C)NHK

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。2月11日に放送された第六回「二人の才女」で、主人公まひろ(吉高由里子)が自分の思いを語った言葉だ。前回、自分の母の命を奪ったのが道長(柄本佑)の兄・道兼(玉置玲央)であることを道長に打ち明けたまひろ。これにより、互いの間に横たわる因縁を自覚したまひろと道長は、それぞれ新たな行動に出る。

 まずまひろは、父・為時(岸谷五朗)に、母の仇(かたき)である道兼の父・藤原兼家(段田安則)だけでなく、左大臣・源雅信(益岡徹)とのつながりも作っておきたいと告げ、これまで通り、雅信の娘・倫子(黒木華)の和歌の集いに通う許可を得る。だがそれは口実で、その裏に秘められた本心を独白したのが、冒頭に引用した言葉だ。

 こうして、まひろが道長から距離を取ろうとする一方、まひろの母の死の真実を知った道長は、自らの家の闇を自覚することになる。それをより強く印象付けたのが、道長に語った兼家の次の言葉だ。

 「道隆とお前が、表の道を行くには、泥をかぶるやつがおらねばならぬ。道兼はそのための道具だと考えよ」

 さらに道長は、道兼からこう告げられる。

 「お前は、自分だけきれいなところにいると思うておるやもしれぬが、足元を見てみろ。俺たちの影は、みな同じ方を向いている。一族の闇だ」

 こうして、一度は距離を取ったかに見えたまひろと道長。だが2人は、再び引き寄せられるように再会することになる。その舞台になったのが、道長からの情報を元に、政敵・藤原義懐(高橋光臣)に誘われた藤原公任(町田啓太)たちを懐柔しようと道長の兄・道隆(井浦新)が開いた漢詩の会だ。

 学者である為時がその会に招かれたことで、文学好きなまひろは自分も同行したいと願い出る。もちろん、道長が出席しないと確認した上でだ。

 確かに道長は、「漢詩が苦手なので」と道隆に出席を辞退していた。にもかかわらず、遅れてその場に姿を現す。なぜ道長が現れたのか。その理由が明らかになったのは、この回のラストだ。まひろに届いた道長からの手紙に、こう書かれていたのだ。

 「ちはやぶる 神の斎垣(いがき)も越えぬべし 恋しき人のみまく欲しさに」

「光る君へ」(C)NHK

 劇中では詳しく説明されていないものの、ネットでも話題になった通り、これは「あなたに会いたい」という恋心を詠んだ歌だ。つまり、道長が漢詩の会に遅れて出席したのは、まひろが来ることを知り、会いたかったため、ということになる。

 距離を取ろうとしながらも、引き寄せられていくまひろと道長。2人を再び結びつけるのが漢詩の会というのは、本作らしい粋な展開だ。さらに言えば、その漢詩の会が権力争いに利用されているという事実は、これから2人を翻弄(ほんろう)していく大波の予兆にも思える。その証拠に、2人のすぐ近くで、道隆や道長の姉・詮子(吉田羊)らが仕掛ける権力闘争の影が、少しずつその姿を現わしつつある。それがまひろと道長の未来にどうかかわってくるのか。またこの回の最後、道長の思いを知ったまひろは、これからどうするのか。そして、自らの一族の影を知った道長は今後、どう振る舞っていくのか。新たなステージを迎えた2人を待つ波乱を予感させる回だった。

(井上健一)

「光る君へ」(C)NHK