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「日本米」は特別な食べ物 安武郁子 食育実践ジャーナリスト 連載「口福の源」

筆者作画

 近年、米不足や米の高騰、「日本米」の供給問題が話題になっています。政府は外国米の輸入増加を試みていますが、日本人にとって、日本米がもたらす独自の価値や役割を忘れないようにしたいものです。まず、日本米は単なる食材ではなく、文化的・精神的に深い意味を持つ特別な食べ物です。米は縄文時代から栽培が続く作物であり、私たちにとって大切な主食として、食事そのものを「ごはん」と呼ぶ習慣からもその重要性がうかがえます。

 作物名は「稲」、食品名は「米」、食物名は「飯」、あるいは丁寧に「ごはん(御飯)」といった使い分けが示すように、米は日本人にとって単なるエネルギー源ではなく、文化の象徴ともいえます。

 これほど普及し、日本人に受け入れられた理由は、稲の栽培が日本の気候風土に適していたこと。国土がせまく農地が限られている中で、1粒の種から大量の米がとれ、稲の栽培によって多くの人を養うことができるほど生産性が高かったこと。また、米の7割以上は炭水化物でエネルギーの供給源として適していることなどが、米が支持された理由といえます。

 日本の伝統食である和食。一汁一菜や一汁三菜の食事は、日本米を中心にした食文化です。和食は素材の味を大切にし、薄味であることが特徴です。食事は「口内調理」で、ごはんやおかずをよく噛(か)むことで味わいを深め、唾液が分泌されることで口腔(こうくう)内が清潔に保たれます。

 よく噛むことによって、米の甘みを感じることができるのも日本米ならではの特徴です。これが伝統食である和食が「良食=良い食べ方」につながる理由の一つです。

 現代の食習慣では、米を中心にした食生活が減少しています。また、味付けが濃く、噛まずに味わう「口外調理」で、噛む習慣が育ちにくく、唾液の分泌も減少しています。さらに、早食いや流し食べが増えています。その結果、口腔内の健康にも悪影響を及ぼし、国民の20代以上の約8割が歯周病だと言われています(厚生労働省2011年「歯科疾患実態調査」より)。

 伝統的な和食の良さを取り戻し、米を中心にした日本の食文化を大切にすることが、口腔健康、さらには全身健康維持の鍵となることは明らかです。日々の食事の中で良食を意識することで、心身の健康を守り、食べる喜びを再発見できるはずです。これからも、日本米が私たちの食卓で特別な役割を果たすことを願いながら、食べ方を見直し、健康的な食生活を心がけていきましょう。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.26からの転載】