はばたけラボ

【はばたけラボ 先輩に聞く】“捨てることで大事なものが見えてくる”―― 黒潮町地域おこし協力隊・福本麻愉さん


 

 

 未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」。食べること、くらすこと、周りと関わること、ワクワクすること・・・。今のくらしや感覚・感性を見直していく連載シリーズ。過疎や高齢化の進行が著しい地方で、地域外の人材を受け入れ地域協力活動を行う“地域おこし協力隊”制度。“缶詰作り”の夢を追って高知県西部の海沿いの町・黒潮町に着任した福本麻愉(ふくもと・まゆ)さんに聞いた。

 

Q.1 今の仕事に就いたきっかけは?
 根っからの自然好きで、ずっと川や海で遊んでいるような子だったんです。魚の図鑑がボロボロになるまで見ていたらしく、夢が“さかなくん”になることでした。海洋系の勉強ができる高校に進み、そこで捨てられる魚を加工して漁師の収入アップにつなげる取り組みをしたのですが、学校の設備の関係で包装材に使えるのがパウチだけで。当時の恩師が「缶詰だったらもっといろいろできる」と教えてくれて、缶詰製造を専門に学べる短大に進学しました。


 短大卒業後、食品会社で働いていた時に、ここの缶詰を知りました。一番びっくりしたのは、8大アレルゲン不使用(当時は7大)。アレルゲンをなくすには工場から作り直さなきゃいけないくらい大変だと知っていたので。さらに、3年間常温保存もできる。「ミラクルみたいな缶詰やな」って(笑)。


 こういうおシャレな缶詰は大きいメーカーのものだろうと思ったら、聞いたことのない会社で。ホームページで検索して、“防災の町”が発端で始まったことを知りました。缶詰に書かれた「34M」って、南海トラフ巨大地震の津波の想定高が全国一の「34メートル」のことなんです。津波が来る町なのを逆手にとって、津波が来ても、町には防災タワーがある。夜間避難訓練に全住民が参加していて、防災食ではアレルギーがある人も安心して食べられるものを用意している。「何とかしたい」という思いを、こういう形で実現されたことに情熱を感じました。


Q.2 どうやって採用された?
 会社のホームページで採用について尋ねたら、「今はやってない」って。町のための会社だから町の人を雇いたいんだろうと思って一回身を引きましたが、後に地域おこし協力隊で「缶詰開発・製造サポーター」の募集が出ていたんです。


 2次審査が現地面接だったのですが、車で片道3時間半かかり、秘境みたいなところだなと思いました。面接はガチガチ。地域おこし協力隊は公務員の会計年度任用職員に当たるらしく、「公務員になる自覚は?」って突然聞かれ、しどろもどろでした。なので、受かった時はすごいうれしかったです。前職もそうですが、自分のやりたいことで社会に恩返ししたいと考えていたので、その一つである缶詰で仕事ができる!って。

 

Q.3 今暮らしている町はどう?
 黒潮町は隣の四万十町と比べて広くて、開けています。それに、魚がめっちゃおいしい。趣味でダイビングをしていますが、黒潮町から1時間ぐらいのところにダイビングスポットの大月町柏島があって、海が豊かだなって思います。それに、地域おこし協力隊の皆さんは仲が良くて、「呼ばれて来た」みたいなスピリチュアルな話をよく聞きます(笑)。移住して来る人も迎え入れる人もいい人で、人のつながりってすごいなと。

 

Q.4 ここに住み続ける? 今後の目標は?
 まだ22 歳。これからの人生を考えたら、もうちょっといろんな世界を見てみたいので、違う町や国に行くかもしれないですが、本当に住み心地はいいし、楽しいです。
 地域おこし協力隊の活動は3年なので、缶詰に取り組みながら、町に還元できる活動を開拓したいです。例えば、カツオの加工時に要らない部分を捨てるけれど、もったいないと思っていて。地元の子ども食堂などに、出荷できない缶詰を持ち寄ってアレンジ料理で味を知ってもらえば、町のためにも缶詰PRにもなります。お互いウィンウィンの活動ができたらいいなって考えています。


番外Q 「はばたけラボ」が問い掛けるテーマ、〝ヒトは「 」で人になる〞。あなたの考える「  」に入る言葉を教えてください。
 私がやったのは、とにかく“モノを捨てる”。今の世の中、いっぱいいろんなモノがあって魅力的で、買い込んだりコレクションしたり・・・。ここに来る前にバックパックで東南アジアを巡ったんですけど、「これで生きていけるんや」って。そこから、服や身の回りのモノを捨てました。本も好きでしたが、場所を取るし視界のノイズになるなと。モノを捨てると、自分のやりたいことが見えてくるんです。本当に大事にしてること、やりたいことは捨てないから。


 日本に生まれて、夢を持たないのはもったいないと思います。恵まれた国だし、やりたいことは何でもできる国。「いつかやろう」は絶対にかなわないので、やりたいと思ったら早めに思い切ることが大事。やりたいことは、「自分を待っていてくれる」と思っています。

 

黒潮町缶詰製作所

エビ、カニ、小麦、そば、卵、牛乳、落花生とクルミを使わない缶詰を生産。主原料は高知のカツオ、土佐の地鶏、アユ、ウナギなど。「高知のおいしいものをギュッと詰め込んだ見た目もすてきな缶詰」と福本さん。

 

福本麻愉(ふくもと・まゆ)/2001年生まれ。徳島県徳島市出身。徳島科学技術高校卒。兵庫県の東洋食品工業短期大学を卒業後、地元徳島の食品会社に就職。23年9月、高知県黒潮町に地域おこし協力隊として着任。現在、株式会社黒潮町缶詰製作所に勤務。

#はばたけラボは、日々のくらしを通じて未来世代のはばたきを応援するプロジェクトです。誰もが幸せな100年未来をともに創りあげるために、食をはじめとした「くらし」を見つめ直す機会や、くらしの中に夢中になれる楽しさ、ワクワク感を実感できる体験を提供します。そのために、パートナー企業であるキッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、雪印メグミルク、アートネイチャー、ヤンマーホールディングス、ハイセンスジャパンとともにさまざまな活動を行っています。