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【週末映画コラム】マラソンに挑む選手と監督の姿を実話に基づいて描いた『ボストン1947』

『ボストン1947』(8月30日公開)

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 1936年、ベルリンオリンピックのマラソンで日本は世界新記録を樹立し、金メダルと銅メダルに輝いた。だが、メダルを獲得したのは、日本名の孫基禎と南昇竜として参加した朝鮮人のソン・ギジョンとナム・スンニョンだった。

 第2次世界大戦の終結とともに朝鮮は日本から解放され、韓国と北朝鮮に分かれたが、メダルの記録は日本のままだった。ある日、荒んだ生活を送っていたギジョン(ハ・ジョンウ)のもとにスンニョン(ペ・ソンウ)が現れる。

 2人は「第2のソン・ギジョン」と期待される若手選手のソ・ユンボク(イム・シワン)を1947年のボストンマラソンに出場させるためにチームを組み、数々の試練に立ち向かっていく。

 『シュリ』(99)『ブラザーフッド』(04)のカン・ジェギュ監督が、祖国への思いを胸にボストンマラソンに挑む選手と監督の姿を実話に基づいて描いたヒューマンドラマ。ギジョンの屈折と再生、スンニョンとの友情という縦糸に、ユンボクの活躍という横糸を絡めて描いている。

 ギジョンとスンニョンについては、レニ・リーフェンシュタール監督の『民族の祭典』(38)などを通して知ってはいたが、ユンボクのことは知らなかったので興味深く見た。

 そのユンボクは、韓国を代表して出場しているのに、祖国から満足な資金援助が得られないばかりか、当時の韓国は“難民国”扱いだったのでアメリカ代表として登録される。これでは、日本がアメリカに変わっただけで、たとえ勝ったとしてもベルリンオリンピックの時と同じことになる、というのがレース前の大きな問題となる。

 それを、日章旗、星条旗、太極旗という国旗にまつわるエピソードとして象徴的に描いている。ユンボクが「たとえ日章旗や星条旗を付けて走っても朝鮮人であることに変わりはない」と語るのが印象的。こうした韓国人としてのアイデンティティーを見失うなというナショナリズム的な主張は、いかにも韓国映画らしいと感じた。

 クライマックスのマラソンのシーンは“スポーツ映画”として盛り上がる。ソンウとシワンは相当走る練習をし、体形の維持に努めたと思われる。

ジェギュ監督にインタビューした際、「劇的なレース展開だが、フィクションはほとんど入っていない。マラソンの魅力をできるだけ見せるということに加えて、特別な時代的な状況があった。そこから生まれるジレンマもあった。そうした人間的な部分で昇華させていく必要があったので、人間ドラマ的な要素も併せ持っている。それがこの作品の長所になっていると思う」と語っていた。

(田中雄二)