『ANORA アノーラ』(2月28日公開)
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ニューヨークでストリップダンサーをしているロシア系アメリカ人のアニーことアノーラ(マイキー・マディソン)は、ロシア人の御曹司イヴァン(マーク・エイデルシュテイン)と出会い、彼がロシアに帰るまでの7日間、1万5000ドルの報酬で「契約彼女」になる。
パーティーにショッピングにとぜいたく三昧の日々を過ごした2人は、休暇の締めくくりにラスベガスの教会で衝動的に結婚する。だが、ロシアにいるイヴァンの両親は、息子が娼婦と結婚したとのうわさを聞いて猛反対。離婚させるべく、現地でイヴァンの世話をする男たちを2人のもとへ送り込んでくるが…。
ショーン・ベイカー監督が手がけた人間賛歌の物語。昨年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞。今年のアカデミー賞では作品、監督、主演女優(マディソン)、助演男優(ユーリー・ボリソフ)、脚本、編集の6部門でノミネートされた。
前半の『プリティウーマン』風のシンデレラストーリーから一転し、中盤は逃亡したイヴァンを尻目に男たちとアノーラが繰り広げる壮絶でコミカルなやり取りとイヴァンを捜す追跡劇が中心となる。そしてイヴァンの正体が明らかになる終盤へと続く。一見めちゃくちゃなカオスのようにも見えるが、実はちゃんとした三幕構成になっているのだ。
その中で、身分違いの恋という古典的なシンデレラストーリーのその先をひたすら下品に描き、ソフィスティケート(洗練)されていないスクリューボールコメディー(突飛な行動を取る登場人物が出てくる喜劇)として見せるところが面白い。これが現代風でリアルということなのかもしれないが、好みは分かれると思う。
アノーラが幸せを勝ち取ろうと全力で奮闘する姿を等身大で演じたマイキー・マディソン。セクシーなだけではなくパワフルなヒロインの、その先にある悲しさまでを表現したところには感心した。オスカー受賞もあるかもしれない。
(田中雄二)