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【スズキナオの高知LOVERインタビュー】第3回 大阪出身なのに高知が好きすぎて大阪で高知居酒屋をやっていた森裕子さんの高知愛に触れる。

 やなせたかし氏がモデルのドラマ放送で注目を集める高知。私フリーライター・スズキナオにとってはまだ未知の土地だが、取材を重ねるほどに、その奥深い魅力に引き込まれていった。本連載は、そんな高知をさまざまな視点から見つめ直す、全3回のシリーズ。

 シリーズの第3回目として、関西のご出身ながら「土佐酒アドバイザー」の資格を取得し、高知の地酒、つまり“土佐酒”を広める活動を続けている森裕子さんにお話を伺った。

 森裕子さんは、2023年まで大阪・船場で「土佐酒とさかな」という居酒屋の店主を務めていた。高知県内の酒蔵すべてのお酒を取りそろえ、それと合う高知の珍しい食材を使った料理を提供する人気店だった。閉店後、森さんの土佐酒アドバイザーとしての活動は形を変え、主に大阪府内で開催されるさまざまなイベントを通じて地酒の魅力を伝えている。

 そんな森さんのご経歴や高知への思いについてお話を伺った。

――事前にちらっと伺ったのですが森さんのご出身は高知県ではないんですよね?

 「そうなんです。兵庫県の川西市で育ちました」

――そんな森さんが“土佐酒アドバイザー”として高知のお酒の魅力をPRしているというのは、何かきっかけがあったんでしょうか?

 「私の母が高知県の幡多郡黒潮町の出身で、幼い頃からよく黒潮町に帰省していたんです。それこそ夏休みやお正月はずっと向こうにいて、自分のふるさとだと思って育ちました」

イベントでも積極的に土佐酒をPRしている森さん(中央)、両隣りにいるのは「土佐酒とさかな」のご常連さん

――なるほど、お母さまの縁で高知県によく行っていたんですね。

 「私の母は、結婚して関西に移り住んでもまるで高知にいるような、もはやそれ以上のライフスタイルで、庭のドラム缶でカツオのタタキをわら焼きしていましたし(笑)、食卓には当たり前のように土佐の田舎ずしが並んでいました。黒潮町の飛び地のような家庭だったんです。母の実家は海産物で商売をしていましたので、今も親戚が黒潮町で『舛耕水産』という鮮魚店を営んでいたりと、魚にはうるさいんです」

高知の魚を食べて育ったという森さん

――食文化的にも高知の恵みを受けて育ったわけですね。

 「そうですね。とにかくおいしいお魚は食べてきましたね(笑)」

――森さんは土佐酒アドバイザーでいらっしゃいますが、どうして認定試験を受けようと思ったんですか?

 「幼い頃から、色々な高知県の魅力を味わってきて、高知が大好きなので、もっとそのよさを広めたいと思ったんです。特に高知の豊かな食文化を切り口にした時には、食中酒である高知のお酒は欠かせないと思い、土佐酒アドバイザーを受講することにしました」

――土佐酒アドバイザーになるのはかなり大変なんですか?

「基本的には毎年認定試験が実施されるんですが、その試験を受けるためには、高知で行われる講義を10回ほど受講する必要があるんです。それで毎週のように高知に通っていた時期がありましたね。あと、私は体質的にお酒が強くないんですよ」

――おお、そうなんですね。

 「高知のお酒を知るためにはたくさんの種類を飲む必要がありますし、受講者の中には高知らしく酒豪が多かったですから(笑)。私は少量にもかかわらず、テイスティングの時には必死でした。でも無事に資格を取ることができて、それからはお店ですとか、イベントなどでも高知のお酒を広める活動をしています」

――「土佐酒とさかな」というお店を大阪の本町でやられていたと聞きました。

 「そうなんです。残念ながら2023年で閉店してしまったのですが、そこでは高知県内にある19蔵、すべてのお酒を扱っていました。もともと私は梅田にある地酒専門店の『浅野日本酒店』で働いていたんです。その別業態の店舗が本町にもあったんですけど、東京の浜松町にも店舗を出すことになって、オーナーに本町のお店を任されたんです」

――「浅野日本酒店」、私も飲みに行ったことがあります。

  「オーナーは『もっと日本酒のおいしさを広めたい』をモットーに事業展開しているアイデアマンで、私が本町のお店で土佐酒を扱いたいという話をしたら、好きにしていい、と(笑)。それでその店舗で『土佐酒とさかな』をやらせてもらうことになったんです」

大阪・本町にあった「土佐酒とさかな」のカウンターに立つ森さん

――お店を閉めた後も土佐酒アドバイザーとして活動をされる機会は多いんですか?

 イベントなどの機会がメインですね。2024年には大阪モノレールの車両を貸し切って『日本酒列車』という催しを開いて、そこで土佐酒を振る舞ったり、土佐酒についてトークをしたりもしました」

――それはすごく楽しそうな企画ですね。森さんの思う高知のお酒、土佐酒の魅力はどんなところにありますか?

 「一つ一つのお酒の味わいももちろん魅力なんですけど、私が一番だと思うのは、高知県人の魅力を感じながら飲む楽しさなんです。高知に行って、高知の人たちと一緒に飲む土佐酒が一番おいしいと思います。土佐酒の味そのものを好きになっていただいて、そこから高知に足を運んでもらえるようなお手伝いができたらなと思っています」 

高知愛に溢れる森さんはイベントにも引っ張りだこ

――森さんが高知で好きな場所はどこですか?

 「やっぱり黒潮町ですね。子どもの頃から黒潮町の自然の中で思いっきり遊んで育ってきたので。地元の子たちと一緒になって遊んでいたので、今もつきあいのある友達がたくさんいます。大人になってから仕事を通じて知り合った人もいて、黒潮町に行くといつも友達と会ったりして」

 ――子どもの頃はどんな遊びをしていましたか?

 「海で手長エビをとって食べたり、ニナ貝っていう貝をとって食べたり、川でもよく遊びました。私は母のおばあちゃん、私にとってのひいおばあちゃんから教わった文化で育ったんで、遊び方とかも昔の高知の感じなんですよ。とうもろこしのひげで姉さん人形を作ったり(笑)」

――自然豊かな土地ならではの遊びばかりですね。

 「今でも海や川で遊ぶのが好きです。高知の人って、子どもの頃から変わらない遊びをしている人が多いんです。以前、子どもと一緒に川遊びをしていたことがあったんですけど、川でずっと遊んで出てこない大人がいて、話しかけてみたらやっぱり高知県人なんです(笑)」

 

今も頻繁に高知に足を運んでいるという森さん

――それは楽しみです。ちなみに、関西圏で高知を感じられるおすすめのお店はありますか?

 「京都の四条大宮にある『南国ジンジャー』はすごくおすすめです。お店の方が高知出身で、高知の食材を使っておいしいスパイスカレーを作っているんです。高知のお酒も用意されていて、すごくいいお店なんです!」

――それは行かねば! ありがとうございます!

 と、この取材時は、お忙しい中、お話を伺っただけで終了となったのだが、6月18日から阪神梅田本店で開催される「高知フードトリップ~乾杯!土佐の宴会開宴~」で、森さんが切り盛りする日本酒バーでおすすめのお酒を飲ませていただくのがすごく楽しみになった。

※本記事は、ことさら出版との連携企画です。


スズキナオ(X/tumblr)

1979年生まれ水瓶座・A型。酒と徘徊が趣味の東京生まれ大阪在住のフリーライター。WEBサイト「デイリーポータルZ」「集英社新書プラス」「メシ通」などで執筆中。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーで、ことさら出版からはbutajiとのユニット「遠い街」のCDをリリース。大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』『家から5分の旅館に泊まる』(スタンド・ブックス)、『「それから」の大阪』(集英社)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』(新潮社)、『大阪環状線 降りて歩いて飲んでみる』(インセクツ)。パリッコとの共著に『酒の穴』『酒の穴エクストラプレーン』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)、『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』(スタンド・ブックス)。