ー本作の出演にあたって、「この作品に人生を強く感じた」というコメントを出していましたが、坂井さんにとって「人生」ってどんなものですか。
修行と言うと重くなってしまうので、あえて「学び」とさせていただきます。歳を重ねても、学ぶことは絶えなくて、だからこそ人生は面白いなと思います。
ーそうすると人生の中で大切にされているのは「学ぶ」こと?
そうですね。王貞治さんが「努力は必ず報われる」っておっしゃっていましたが、本当にそうだなと思います。今、53歳になり、達観する年代になったのかなと思ったら、全然違います。死ぬまで学び、そのために努力をすることで得られる喜びが尊い人生なのでは。ストイック?(笑)。
ーそうした努力を重ねている中で、疲れたときやどうにもならないときには、どうやって気持ちを切り替えているのですか。
やっぱり、人に助けられています。家族や友人の笑顔だったり、みんなの頑張っている姿にも救われます。大谷翔平選手がホームランを打っている姿にも大きな活力をいただいていますよ。あと、心が疲れてしまうときって、人への感謝を忘れてしまっていることが多かったりします。だから、ひとつひとつ感謝することをあげていくと、あれ、私って意外とラッキーじゃないというところに行き着くんです(笑)。
ーでは、芝居をする上で、特に大切にしていることは?
「役者はどこかで、自分と距離を持って見ていないとだめだ。自分が気持ちよくなって芝居をしたらだめなんだぞ」と緒形拳さんにおっしゃっていただいたことがあり、その言葉をお守りのように大切に持っていて、演じるときに思い出しています。しかし、役との距離感は本当に難しく、その言葉の重みと深さをいつも痛感しています。
ー俳優としてのターニングポイントとなった出会いを教えてください。
緒形さんとの出会いももちろんですが、『銀河鉄道の父』という映画で、成島出監督とご一緒させていただいたことも大きな出会いになりました。キャリアだけは上がっていますが、できていないことも多いと思うんです。でもなかなか指摘されることは少ない現実があります。成島監督は、時間をかけて丁寧に、声の出し方やカメラの前でのあり方、台本の読み方を教えてくださいました。成島監督のおかげで、俳優としての意識が変わったことがたくさんあります。本当にありがたい時間でした。
ーこれから先、俳優としての目標やイメージしている未来像は?
これまでさまざまな役を演じさせていただき、その恩返しという表現がふさわしいか分かりませんが、作品の中で自分の存在が確実な力となれればうれしいです。そして、自分しか出せない存在感のある俳優になりたいです。
ー改めて、作品の見どころを教えてください。
走り出したら止まらない人間の感情の面白み、悲しみ、そして、人間臭さのある、情熱的な舞台だと思います。それらの人間の姿は、普遍的なものとしてあらゆる人の心に届くと思いますし、アーサー・ミラーの色あせない力強い戯曲の面白さをお届けできたらと思っています。ぜひ、劇場に足を運んでください。
舞台「橋からの眺め」は、9月2日〜24日に都内・東京芸術劇場 プレイハウスほか、北九州、広島、京都で上演。