-最近はミュージシャンの伝記映画も数多く作られていますが、劇映画ではなくドキュメンタリーだからこそ見えてくるものがあるとも感じました。
おっしゃる通りです。最初は、プリンスの周りにいたコミュニティーの人たちにインタビューをしたいと思っていましたが、割と閉鎖的というか、皆あまり話をしたがらないんです。実際に、昔からプリンスのことを知っている人たちの中には、彼の悪いところや汚いところを強調する人たちが結構多かった。例えば、彼がドラッグの中毒で死んでしまったとか、悪い方向に話を持っていってしまうんです。僕は、この映画を通して、プリンスが素晴らしい人物だったことを描きたかったし、純粋に彼をたたえる映画にしたいと思っていたので、そうした思いをコミュニティーの人たちに伝えると、「今までそんなふうに取材をする人はいなかった」と。そこから皆さん打ち解けて、さまざまな真実を語り始めてくれました。正しい意図を伝えたことで、周囲の人たちが真実を提供してくれたと思いました。
-この映画を撮り終えてどんな思いがありましたか。
プリンスは、もちろん才能あふれる人ではありましたが、もちろん人間なので、何かしらのあらがあったり、何かしらの失敗もしてきた人ではありました。ただ、彼はそこをうまく解消して、消化していったというふうに感じました。それをファンの人たちもよく理解していたのではないかと思います。今までいろいろな映像を制作してきましたが、この映画は、僕にとって一番大切なドキュメンタリーになったと思います。どちらかというと彼の音楽よりも、彼の人間性に引かれたところが多かった気がします。この映画を作りながら、彼が僕の人生を変えてくれたと言っても過言ではありません。僕をよりよい人間にしてくれたと思っています。
-最後に、この映画の見どころを。
この映画の一番の見どころというか、大切なところは、スパイク・モスという人物の存在だと思います。彼はとてもいいボクサーだったので、ムハマド・アリのようになってもおかしくはなかったのに、彼はその道を行かずに、ストリートにいる子どもたちをいい方向に導きたいという強い信念によって、「ザ・ウェイ」というコミュニティーセンターを作り上げました。そこで、子どもたちがアイデンティティーを形成していく手助けをし、彼らの成長に多大な貢献をしてきた人物です。彼はプリンスにとってはメンター(師)であったばかりでなく父親的な存在でもあったし、「ザ・ウェイ」は後に議員になった人や著名な映画監督、ミュージシャンなども輩出しています。僕もそうしたコミュニティーセンターを作る手助けをしていきたいと思っています。そうした考えに至ったのも、スパイク・モスという素晴らしい人がいたからです。ですから、この映画ではスパイク・モスという人物がかなり大きな存在になっていると思います。
(取材・文・写真/田中雄二)