今シーズンから、総合家電メーカーのハイセンスジャパン社が、プロ野球セ・リーグ、横浜DeNAベイスターズの公式スポンサーになった。中国に本拠を置くハイセンスが、日本での知名度とブランドイメージのアップを狙った販売戦略の一環。主力商品である大型テレビを前面に押し立てた大画面大応援プロジェクトを展開している。5連休初日の5月3日には、横浜スタジアムでの広島東洋カープ戦を協賛試合として「ハイセンス 大画面テレビ Day」を実施した。そしてこの日は、単に協賛試合というだけでなく、球団の歴史に残る日になった。
▽史上最多の観客
快晴、微風。絶好の観戦日和に加え、今季から加入した2020年の米大リーグのサイ・ヤング賞(最優秀投手)投手、トレバー・バウアーが初めて登板した。大物投手の初見参に球場には史上最多の3万3202人の観客が詰めかけた。始球式には、ベイスターズファンでハイセンスの大画面大応援プロジェクトリーダーの歌手、相川七瀬が登場。十分に練習を積み「ノーバウンドで捕手まで投げたい」と意気込んで臨んだが、惜しくも本塁付近でワンバウンド。残念そうな表情だったが、さわやかな笑顔で観客に応え、スタンドのテンションは一気に高まった。
相川さんは、次男や友人を引率してベイスターズの試合観戦に訪れるうちに、ファンになったという。これまで何度か始球式に臨んでいるが「毎回、緊張する」そうだ。数万人の観客がいるフェスやライブを経験していても「始球式は一発勝負。歌はミスしても曲のどこかでカバーできるが、始球式は本当に1球だけ。こういう勝負が連続する野球の奥深さを感じる」という。そして家族やほかの観客と一体となって応援する楽しさが「野球観戦の魅力」と話す。
だから、ハイセンスから応援リーダー就任の依頼がきた時は「応援するだけでなく、仕事としてかかわることができる。選手とともに自分がいるなんて、ファン冥利に尽きる」と快諾した。その時の気持ちを、自身のヒット曲「Sweet Emotion」になぞらえ「エモーショナル(感動的)」と表現した。そして応援リーダーとして「今シーズンこそ、ぜひ三浦大輔監督の胴上げを見たい」と夢を膨らませる。
▽マウンド後方に社名
ハイセンスは公式スポンサーになったことで、ユニホームの左袖とスコアボード(電光掲示板)の両側、それにマウンドの後ろに「ハイセンス」の文字が入る。球場内の各所にも全部で180台の同社の高画質大画面テレビが設置された。特に反響が大きかったのはマウンド後方の文字で、中継だけでなくニュース映像の投球シーンのほとんどで映し出される。ハイセンスジャパンの家倉宏太郎マーケティング部ブランドマネージャーは「いろいろな交渉の中でマウンド広告が実現しましたが、これはヒットでした」と振り返る。
日本での知名度はもう一つでも、昨年暮れに開催されたサッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会で、フィールドのフェンス広告で「Hisense」の文字を見た人は多いのではないだろうか。家倉さんによると「W杯は世界に向けてのアピール。日本国内はどうするかと考えた時、会社(ハイセンスジャパン・川崎市)がある神奈川県のプロ野球チームを応援しよう」と決めたそうだ。
▽イメージ戦略にぴったり
日本国内のテレビのシェアで、ハイセンスは10パーセントほど。20代、30代が購買層の中心。東京2020五輪に合わせて大改修された横浜スタジアムには、家族連れに加え女性グループや若いカップルも多く、都会的な華やかさすら漂う。痛烈なヤジが飛び交った昔の雰囲気からはほど遠く、同社のイメージ戦略にはぴったり。そしてこれから長く語り継がれるだろう5月3日にかかわったことは、関係した多くの人にとって大切な思い出として残るはずだ。