ふむふむ

責任とらず、検証も不十分 米政策の転換 アグリラボ編集長コラム

 米価の高騰の原因について、政府はようやく「供給不足」を認めた。これまで「米はある。どこかにスタック(停滞)している」(江藤拓前農相)などと言い張り、流通の問題に矮小(わいしょう)化してきた。これを批判してきた本コラムとしては、「やっと」という感がある。ただ、検証はまったく不十分で、増産への政策転換には論理的な飛躍がある。

 85日、首相官邸で開かれた「米の安定供給等実現関係閣僚会議」で、政府は「米の需要量と供給量の見通しを誤り、生産量が足りていると誤認し、民間在庫に柔軟性がない中で政府備蓄米の放出のタイミングや方法が不適切だった」と自己批判した。同日の記者会見で小泉進次郎農相は「もちろん責任はある」と述べたが、謝罪はしなかった。

 一方、自民党に対しては、8日朝の農林部会に渡辺毅事務次官ら農水省幹部約10人が出席して深々と頭を下げ、「どうもすみませんでした」と異例の陳謝をした。農水省は、どちらを向いているのか。この後の会見で、小泉農相は記者の質問に答える形で「国民の皆様にご迷惑をお掛けした。農水省の責任として、おわびをしなければならない」と述べたが、順序が逆だ。本来、真っ先に陳謝するべき相手は国民だ。特に、高騰で米を入手できなくなった消費者や、買い占めで暴利を得たかのように疑われた流通業者には丁寧な説明が必要だ。

 失言で自滅した江藤前農相を除くと、だれも責任をとっていない。夏の中央省庁の人事異動で事務次官は留任した。政府の見解にお墨付きを与えてきた審議会の学者ら専門家も沈黙している。「米の消費は毎年810万トン減り続ける」というこれまでの説明は何だったのか。「供給は十分になされている」(62日の参院予算委)という農相の答弁は撤回しなくて良いのか。野党の追及も甘い。

 石破茂首相は謝罪どころか「増産にかじを切る」と自信たっぷりに胸を張る。しかし「供給不足」と「生産不足」は同義語ではなく、増産の根拠としては飛躍している。もちろん、担い手の高齢化や猛暑などで生産力そのものが低下している恐れがあるが、これは米価高騰の前からの構造的な課題だ。

 供給不足の最大の要因は、需要の上振れを読み切れず、生産余力があるのに、主食用以外の米の作付け強化(いわゆる事実上の減反)などを通じて供給を絞り込みすぎた調整ミスだ。

 自民党の農林部会の2日前、農林議員の幹部2人が小泉農相と会談し、増産による米の値崩れの懸念を伝えると、農相は「需要に応じた生産が基本」と応じるしかなく、早くも軌道修正を迫られた。

 関係閣僚会議による内部検証は、猛暑やインバウンド(訪日外国人旅行者)の増加、統計の不備など、想定外のいわば「天災」が強調され、農水省の政策ミスを過小評価している。「増産」を唱える前に、需給見通しを誤った原因と責任を明確にしなくてはならない。特に、需要の上振れは、一時的な増加と構造的な増加を切り分け、パンや麺類との代替や価格との関係を分析しないと、供給不足の量を見誤る。それには専門家による精査が必要だ。

 政治的なパフォーマンスとして大仰な改革姿勢を演出する前に、透明性のある場で米不足を客観的に検証し、その結果を丁寧に説明することから始めなくては、失政を繰り返す。

(共同通信アグリラボ編集長・石井勇人)