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【極上の田舎】穏やかな海と漁師言葉に癒やされる至福の時間 中土佐町上ノ加江地区の漁業体験

中土佐町上ノ加江で漁業体験

 高知県の中西部にあり、太平洋と山々に囲まれた小さな漁師町、高岡郡中土佐町上ノ加江(かみのかえ)地区。土佐湾に面した上ノ加江の海には、火打ヶ森などの山々から時間をかけてろ過されたミネラルたっぷりの水が、上ノ加江川から流れ込み、豊かな漁場を作っている。

 上ノ加江地区では、アマダイやタイ、鱧(はも)、伊勢エビなどが水揚げされるが、近年の磯焼け(海藻が減少・消失する現象)により、魚介類の成育場が減少する問題に直面。磯焼けの原因の一つとされる植食性魚類(海藻を主に食する魚類)をカゴ漁で除去したり、ウニの駆除も行っている。

■漁協が一体となり「漁業体験プログラム」を企画・実施

 環境の変化や高齢化など、漁業を取り巻く状況が厳しくなる中、高知県漁協・上ノ加江支所(以下、上ノ加江漁協)は、漁業体験プログラムの実施を2003年に企画。未来を担う子どもたちに、海のこと、魚のおいしさ、そして環境を守ることの大切さを知ってもらうことを目的に、植食性魚類の除去も兼ねたカゴ漁をはじめとする漁業体験や、漁師料理のもてなしなどのプログラムを考案。漁港前の湾を体験専用の漁場として禁漁区にするなど、漁協が一体となり実現にこぎ着けた。

上ノ加江漁協のみなさん

 2004年からは、参加者からのヒアリングも兼ねたモニターツアーを開始。試行錯誤を重ね、体験プログラムを磨き上げた結果、2006年には約500人が参加した。2007年には漁業体験施設「わかしや」を建設し、団体客の受け入れにも成功。2010年には、約1300人が本プログラムに参加している。

 漁業体験プログラムを運営していく中で当初、漁師たちは接客に戸惑ったという。気骨があり、シャイでやさしい漁師たち。海の上では団体行動もなければ、安全を優先すべく大きな声で短く伝えることが慣習。そんな漁師たちが、丁寧な言葉使いで接客を行ったところ、あまりにも不自然だという指摘もあり、漁師言葉に戻したというエピソードも。

■漁村や食文化の伝承、環境問題も学べる漁業体験プログラム

カツオのわら焼き体験

 穏やかで澄んだ湾での体験プログラムは、魚や海、そして海を取り巻く環境の講義から始まる。講義内容は参加者により変えている。そして、カツオのタタキ作り体験へ。捕れたてのカツオをさばく手際の良さと、わら焼きの炎に歓喜の声が上がり、いよいよ試食。新鮮でキラキラ光るカツオのタタキに、私たちの胃袋はガッチリとつかまれる。

新緑に囲まれた穏やかな湾へ

 カツオでおなかが満たされたら、ライフジャケットを着用し乗船。今回のカゴ漁は、ワタリガニやイシガニ、魚を狙ったもの。9月から春にかけては、伊勢エビが捕れるという。捕れる魚や、漁の種類は季節によって変わる。波がほとんどない穏やかな湾を船で進むと、前日から仕掛けていたポイントに10分ほどで到着。ロープでカゴを引き寄せると、カゴの中には見事なカニが。2つのポイントを回りカゴをいくつも引き上げながら、港に戻る。天候や海の状態により、捕れない日があることも、ご承知おきを。

漁師さん指導のもと、和船体験

 続いては、和船体験。木で作られた、昔ながらの船に乗り込み、櫓こぎ(ろこぎ:和船をこぎ進める用具)で湾の中を回遊へ。手慣れた漁師がこぐ木の船は、グイグイ進んで見事に旋回する。青い空の下、新緑の山々に囲まれた穏やかな海の上を、手こぎの船に揺られる時間は、ぜいたくで心が満たされていく。そして、漁師指導のもと、手こぎを体験し、その操作の難しさを知る。今では、櫓こぎで船を操れる漁師も減り、木の和船を作る職人もいなくなってしまったため、和船体験は個人の参加者に限り、和船のメンテナンスも漁協で行っている。

捕れたてのカニをいただきます

 漁業体験プログラムの最後は、待ちに待ったお昼ご飯。捕れたての新鮮なカニを漁協スタッフが調理。身が引き締まり、旨みが凝縮したカニは、ミソも濃厚で、さらにメスのおなかにある卵は絶品。カニでおなかがいっぱいになる幸福感に満たされるほか、鱧(はも)のしゃぶしゃぶや、伊勢エビのみそ汁も絶品。本プログラムへの参加者からは、魚が苦手だった子が、食べられるようになったとうれしい声も。

伊勢エビのみそ汁

 スタッフの松丸梨佳さんは「漁業を体験し、おいしい魚を食べることで、魚に興味を持ってもらいたい。環境学習も行うプログラムに多くの子どもたちに参加してもらいたい」と語った。漁協は、スタッフの高齢化や後継者不足といった課題と向き合いながら、今後も漁業関係者と協力しながら本事業を継続していく。

 さまざまな機会を通じて、子どもたちが社会や環境の問題について学習し、主体的かつ積極的に取り組んでいくことが求められている。漁師の心意気にあふれる「漁師体験プログラム」は、漁村や食文化の継承と環境問題への取り組みへの重要性について学べる貴重な機会だ。海を守り、海と共に生きる上ノ加江の人々のメッセージを今後も、本プログラムを通じて広く、強く伝えていって欲しい。

 2024年3月に県内で行われた「オススメどっぷり高知旅コンテスト」で、奥四万十エリアにおいて1位に選定された「上ノ加江漁協 漁業体験」のお問い合わせは、高知県漁業協同組合 上ノ加江支所(旧:上ノ加江漁業協同組合)TEL:0889-54-0111まで。