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牛にとって何より大切なもの 畑中三応子 食文化研究家 連載「口福の源」 

ひまわり乳業の〝生産者の顔が見える〟個性豊かな牛乳たち

 昨年11月、乳文化の愛好者が集う「ミルク1万年の会」主催の「ブラミルク@高知」に参加し、〝山地(やまち)酪農〟の牧場と老舗の乳業会社を巡った。

 日本の酪農は輸入の配合飼料を食べさせ牛舎で飼うのが主流だが、〝山地酪農〟は山で牛を放し飼いにする。斜面に在来種のノシバや野草などが生える草地をつくり、牛は365日昼夜とも山で暮らして草を食べ、搾乳時だけ牛舎に来る。

 牛の糞(ふん)尿は土に還(かえ)って草の栄養になり、草地が土砂崩れを防止する。日本の風土に深く根ざした循環型・環境保全型の酪農だ。戦後まもなく植物生態学者の猶原恭爾(なおはら・きょうじ)氏が提唱し、共鳴した岡崎正英氏が高知市街から約4キロ北にある中山間地で最初の牧場を始めた。

 昭和30年代に注目を集めて全国に広がったが、1〜2頭につき1ヘクタールと広い面積を要し、まとまった土地取得が困難なこと、牛の運動量が多いため乳量が少ないことなどから下火になった。だが輸入飼料や燃料、電気代の高騰などで酪農家の廃業が急増する現在、飼料自給の観点と環境や動物福祉への配慮から再び脚光を浴びている。

 発祥の地である高知県では3カ所の牧場が、それぞれ特徴あるやり方で〝山地酪農〟を続ける。香美市土佐山田町の「雪ヶ峰牧場」では、東京ドーム25個分の放牧地にわずか100頭前後のジャージー牛がのんびり草を食(は)む。体は小さいが、乳は乳脂肪分が高く濃厚。牧場長で獣医師の野村泰弘さんによると、牛舎飼いに多い乳房炎はなく健康そのもので「放牧すると病気にならない」。牛には自由に行動できるストレスフリーな暮らしが、何より大切なのである。

ポツンと1頭で草を食べる雪ヶ峰牧場のジャージー牛

 南国市の「斎藤牧場」は、こんな斜面を牛が登るのかと驚くほど急峻(きゅうしゅん)な山地の牧場だ。放牧するのは一般的な乳牛のホルスタイン種だが、そうは思えないほど乳房が小さめで全身たくましい。おやつに名産のタケノコやカブの残渣(ざんし)、地元酒造の酒粕(かす)やビール粕、小麦の皮や米ぬかを食べる。乳のおいしさと地域産物を循環利用していることが評価され、2025年の農林水産省フードシフトセレクション「みどりの食料システム戦略の推進に寄与する農林水産物・加工食品等の産品」部門で最優秀賞を受賞した。

 〝山地酪農〟のパイオニア、岡崎氏の著作を読んで感動し、50年前に21歳で移住して牧場を引き継いだのが「ディアランドファーム岡崎牧場」の鹿嶋利三郎さんだ。今は自由に歩き回れる牛舎で飼い、1日2時間だけ放牧する。ソフトクリームやスイーツを販売するショップが人気の観光スポットとなり、〝山地酪農〟を知る場としても機能している。

 乳を手間のかかる低温殺菌で製品化するのが「ひまわり乳業」だ。小型ミルクローリーで牧場をこまめに回って搾りたての生乳を集め、酪農家ごとの個性を表現したパックに詰めて販売している。創業から103年、品質にこだわり「健康・自然・地域」をキーワードにしたものづくりに努める企業に支えられ、高知の〝山地酪農〟は今日も元気だ。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.2からの転載】

はたなか・みおこ 専門は近現代の流行食。料理本の編集も。著書に「ファッションフード、あります。」(ちくま文庫)など。