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どんな未来に、何を“投資”する? 「大切なものに投資をしよう合宿所」に暮らすスキー部女子学生の現在地

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 今年4月、日本体育大スキー部の女子合宿所(東京都世田谷区)が復活した。1960年に始まった学生専用アパートが、1972年に鉄筋コンクリート造り3階建てに建て替えられ、レスリング部合宿所・スキー部女子合宿所としての利用を経て、2014年からはスキー部男子の合宿所となっていた建物。同大スキー部女子部員21人のうち12人が入居している。現在進められているこの合宿所の改修工事に資金を提供しているのが、マネックス証券(東京)だ。スキー競技に打ち込む女子学生たち、そして彼女たちのより良い生活環境のために支援に踏み切ったマネックス証券の思い。「10月4日」の「証券投資の日」を前に、“投資”をキーワードに、ともに同大女子スキー部の3年生である芳川千恵さん、畠中悠生乃さんと、マネックス証券経営企画部の津川真秀さんと、に話を聞いた。

女子スキー部員の生活拠点となる「合宿所」

 幼少期からスキーを始めた長野県出身の芳川さんと北海道出身の畠中さん。種目は芳川さんがクロスカントリー、畠中さんがアルペン。高3の終盤からコロナ禍に突入し、日体大入学後の1年時は、入学式も無く授業も全てオンラインだったという。地元でのトレーニングに励んだが、中止になった大会も多く、2人が初めてまともに顔を合わせたのは2年生になり、ようやくリアルでの大学生活がスタートしてからだった。2年時は、同大のさまざまな部の学生200人ほどが入る学生寮で生活。3年の今年4月から、スキー部の女子寮として復活した合宿所で生活している。昨年のインカレ(全日本学生スキー選手権大会)では、芳川さんはクラシカル種目で8位、フリー種目が9位、畠中さんはジャイアントスラロームで優勝、スラロームが7位という実績を残した。

 スキー部女子合宿所の名前は、「大切なものに投資をしよう合宿所」。“大切なものに投資をしよう”は、マネックス証券が2021年秋から掲げているブランドビジョン。スキー部の竹腰誠部長(57)や部員有志が合宿所の改修資金をクラウドファンディングサイト「フリサケ」で募った際に、165万円支援の返礼(リターン)として提示した合宿所の命名権(命名期間5年)を、マネックス証券が獲得して名付けた。同社の支援を得て、現在、部員たちが待望していた炊事場の改修が進められている。少々長めの命名には、投資の価値をもうけや利益だけではなく、それぞれの未来や夢を実現させるものへと進化させていきたいという思いが込められている。

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自分の意思で選んだスキー

 小3の時に友達に誘われてクロスカントリーを始めた芳川さん。中学に入ってから入賞できるようになり、中2の頃にはスキー1本に絞ろうと決心。小学時代から続けていた水泳・ピアノ・書道もやめ、高校では、飯山高校のスポーツ学科でスキーをしていた。「地元長野で一緒に競技をし、一昨年日体大を卒業したクロスカントリーの宮崎日香里さんに憧れています。強くてかっこよくて」と話す。畠中さんは、父親がコーチをしていた札幌のスキーチームに入ったことがスキーとの出会い。小1でアルペン競技を始めた。「ずっとスキー一筋。私はアメリカのアルペンスキー選手、ミカエラ・シフリン選手に憧れています」。

 クロスカントリーもアルペンも、夏場はウエートやランニングなどのトレーニングが中心。11月から5月ぐらいまでは、レース会場を周ってのトレーニングや実戦中心になるという。それぞれ、フォーム改善や、いかに最短距離で目標にたどり着くかなど、課題を考えながらトレーニングに打ち込んでいる。「ゴールをしたときの達成感」(芳川さん)、「とにかく滑ることの楽しさ、勝てた時の喜び」(畠中さん)を原動力に、スキーにがっつり取り組んできた2人。続けて来られた秘訣は、「勝ちたいという気持ちと、負けず嫌いな性格。つらく感じた時などは両親が話を聞いてくれ乗り切れました」(芳川さん)、「勝ちたいと思ってやっていたら、気付いたら今までずっとやっていました。やめたくなったことはなかったです」(畠中さん)。

合宿所の安心感

 合宿所で過ごすのは、1年間の半分弱。食事については、朝は自炊、昼・夜は学食中心。朝食は「栄養士さんが2週間ごとに作ってくれるメニューとレシピを基に、1・2年生が当番制で12人分を作っているそうだ。オフはどんな感じで過ごしていますか?との問いに、2人は顔を見合わせて「各自結構バラバラかな…」。芳川さんは「ゴロゴロして、TikTok見たり…」、畠中さんも「私もオフの日は大抵、合宿所で体を休めていますね」。

 12人の部屋割りは、2人部屋1つ、3人部屋2つ、4人部屋1つで、各学年均等になるように分けているという。「部屋割りは、私の独断で決めました」といたずらっぽく笑う合宿所所長の芳川さん。大人数だった学生寮から合宿所での生活に変わり、副所長の畠中さんは「かなり自由度が増えました。寮は人数が多い分、ルールも多くて厳しくて。もう少し自由に活動したいなという願いはかないました」。一方で、合宿所スタート時にルールをしっかり作っておこうと話し合って進めているという。「時間・役割分担・所在をはっきりさせるなど、その点は女子なのでしっかり守るようにしています」と2人は話す。

投資って、何だろう・・・

 マネックス証券経営企画部の津川さんは、「合宿所の命名権を頂いて目標に向かって頑張っている人たちを応援できるのだったらめっちゃいいね、と、社内的にもすんなりと話が進んだんです」という。「大切なものに投資をしよう」のサイトで、スポーツ選手はじめ、プロトラベラーをしているような個性的な方など、いろいろな人に話を聞いている。「割とみんなあれもこれもいろいろなことをやってきているのかなと思ったら、“何かをやるために、あれもこれもやめました”という人も多い。でもそれは、ネガティブな我慢ではないんですよね。1つのことに打ち込んでいる人たちには、優先順位を考えて思い切って取捨選択をする人がとても多いなと感じています」(津川さん)。

 津川さんは、“投資”という言葉への思いを語る。「何かに投資するって、お金面だけではありません。そして、お金って貯めるだけでは魅力がない」とキッパリ。「投資って基本的に未来に向かっている言葉。投資に対して、ワクワクする未来に向けたイメージが広がっていくといいなと。何かをやりたい人がそれをかなえるために、お金を貯めることができたら。それをずっと応援していきたい」。

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未来に向けて、今2人は

 芳川さんと畠中さんの今の目標は? 芳川さんは、体育教師として指導の側に回る道を目指している。「教職を目指していて大学生活で競技をやめると決めているので、残りの学生生活の中で、全国大会で入賞する結果を出していきたいです」。畠中さんは「私は競技生活を続けるので、4年後と8年後のオリンピックを目指して活動していきたいです」。

 芳川さんと畠中さんに最後に質問。「“投資”という言葉に対し、どんなことを考えますか?」。芳川さんは「今は教員になるという目標に向け、勉強も頑張っています」。畠中さんは「学校の勉強の中で、スキーに直接関係ないことでも、プラスにつながると思って勉強にも取り組んでいます」。

 未来への投資は、努力や時間、体力面のエネルギー、目指すことについて思いなど、さまざまな形で注がれている。何かをやめるという選択もまた、投資の1つの形なのかもしれない。彼女たちの日々を合宿所は見守っている。