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マネックス証券が改修を支援 日体大スキー部が女子合宿所一新へ

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 老朽化が目立つ築50年の日本体育大スキー部女子合宿所(東京都世田谷区、定員12人)の改修を計画する、同部の竹腰誠部長(57)のスマホに予想外の“朗報”が入ったのは、7月25日。マネックス証券(東京)が、合宿所の“命名権”と引き換えに165万円を提供して改修を支援するとの一報だ。これで部員待望の炊事場改修に着手できる。新型コロナ禍の不況で支援が得られない中、想定外の業種からの申し出は、7月30日生まれの竹腰部長には忘れられない「一足早い誕生日プレゼント」(同部長)になった。

「大切なものに投資をしよう合宿所」

 マネックスが付けた名称は「大切なものに投資をしよう合宿所」(命名期間5年)。社名を省いた少々長めの命名に、支援に対するマネックスの「想い」が込められている。マネックス証券経営企画部広報室の津川真秀さん(35)は言う。

 「マネックスが資産運用や資産形成を勧めるのは、何かやりたいことをやり抜くには、多くの場合、お金が必要になるからです。人々がお金を貯めるのは、お金そのものを拝むためではなく、お金を“手段”に、“目的”である、やりたいことをやるためであることが多い。やりたいことをやる、みんなの暮らしをよりよくする、いつか夢を実現する…。こういった人々の思い描く“大切なもの”のために、弊社は貢献できる会社でありたいです。こうした“想い”を込め、“大切なものに投資をしよう”というブランドビジョンを掲げています。今回、社名をあえて使わず、弊社のブランドビジョンを合宿所名にすることで、このような弊社の“想い”をスキー部の皆さんをはじめ多くの方々に伝えたかった。大学対抗の全日本学生スキー選手権大会優勝という目標に向かって日々鍛錬している部員の皆さんの合宿所生活が、今回の支援で少しでも快適になり、彼女たちの目標達成につながることを願っています」

名称に込めた想いを語るマネックス証券の津川真秀さん。
名称に込めた想いを語るマネックス証券の津川真秀さん。

合宿所の前身は学生アパート

 合宿所の命名権は、竹腰部長らスキー部有志が、改修資金を集めるために、インターネットで支援を募るクラウドファンディングサイト「フリサケ」に、165万円支援の“返礼”(リターン)として提示した。竹腰部長は「証券会社に注目していただけるとは思っていなかった。正直びっくりした」と話す。スポーツ関連企業やこれまで支援をしてくれた中小企業などを主な支援者として当てにしていたからだ。

 しかし、今回の支援に込めたマネックス証券の想いを津川さんから聞いた後は、当初抱いた「意外の念」は消え、竹腰部長はむしろ「この合宿所にふさわしい支援者」と思い直す。その理由は、竹腰部長が日本体育大関係者から伝え聞いている合宿所の成り立ちにある。

 竹腰部長によると、合宿所の前身は、1960年に始まった学生専用アパート。大家さんは面倒見のいい姉妹で、多くの学生に慕われた。当初は日本体育大レスリング部が合宿所として利用。姉妹は、試合に臨む部員の減量食作りや試合後の慰労会開催など細やかな心遣いで部員を見守った。1972年には現在の鉄筋コンクリート造り3階建てに建て替え、92年までレスリング部合宿所として、多くの名選手が生活した。日本体育大スキー部女子の合宿所利用は93年から。2014年からスキー部男子の合宿所に変わり、2022年4月にスキー部女子の合宿所に戻った。男子用から女子用に変わる際、姉妹は窓に格子を付けるなど工夫を凝らしている。

合宿所の成り立ちを話す日本体育大スキー部の竹腰誠部長。
合宿所の成り立ちを話す日本体育大スキー部の竹腰誠部長。

合宿所に宿る“共通の想い”

 姉妹は共に教師で、時折見られる運動部の封建的な上下関係に伴ういじめや、体罰などの“不条理”に心を痛める開明的な教育者だったという。「青春の宿守(やどもり)」とうたわれた姉妹を知る竹腰部長は「立派な3階建てへの建て替えや学生たちへの細やかな心遣いは簡単にできることではない。きっと姉妹は、大きな意味で、学生たちの可能性、未来に“投資”したのだと思います。そう考えると、今回のマネックスさんの“想い”と共通するものが、この半世紀を超える歴史ある合宿所には宿っています。“大切なものに投資をしよう合宿所”という名称は、私には姉妹が始めた合宿所の新たな門出にふさわしい名前に思えるのです」と語る。

 津川さんが命名時に抱いた「ちょっと長いかなあ」という心配は杞憂に終わりそうだ。津川さんは「有力な女子選手を集めるスキー部のこれからが本当に楽しみ。今後も応援していきたい」と女子部員たちの活躍への期待が膨らむ。

8月10日まで「あきらめない」

 竹腰部長らスキー部有志がフリサケで募った改修資金の目標額は400万円。マネックスの大口支援のおかげで達成率は50%を超え、一番の課題だった炊事場改修のめどは立った。しかし、さらにもう50%近く上積みしないと、傷んだ床や壁、隙間風が漏れる窓枠、雨漏り箇所の修理のほか、練習の疲れを癒やし、部員全員がくつろげるリビング部屋のリフォームなどのすべてを実行することは難しい。

 フリサケでの改修資金の支援の呼びかけは8月10日まで続く。改修資金集めの開始当初、竹腰部長の両肩にはコロナ禍不況の重圧が重くのしかかったが、マネックス証券の支援でようやく肩の荷を下す機会を得た。ただ、荷が下りたのは一方の肩だけで両肩ではない。竹腰さんはまだ目標額達成をあきらめていない。8月10日までに、今度は「週遅れの“遅い”誕生日プレゼント」が贈られることを…。