メール、ニュースサイトのコメント投稿やSNSへの書き込みなど、多くの人が日々何かしらの文章を書く時代。とんでもない誤変換や恥ずかしい言い回しを目にするのは、もはや日課のようなものだ。恥はなるべくかきたくないという人にお薦めしたいのが、文章を書く際の迷いや間違いを少なくしてくれる『記者ハンドブック』(共同通信社)。このたび待望の電子書籍版が登場した。
『記者ハンドブック』は、新聞記者やライター、編集者、校正者など、文章を扱うプロが常に手元に置いて参照している、いわばルールブック。新聞記事を書くための規則集で、情報を分かりやすく正確に伝えることと、紙面で表記の“ゆれ”が生じないように、基準を定めることを目的として作られている。
プロ仕様ではあるが、言葉や漢字の使い分けに迷ったときや、表記を統一したい場合に指針を示してくれるので、文章を書くさまざまな人にとって役に立つツールとして評価の高い一冊だ。企業の宣伝・広報担当といった正しい文章を要求されるビジネスマン、ウェブライターやブロガーなど、文章を書く幅広い層に活用され、1956年の初版から14版を数えるロングセラーとなっている。
内容は紙版とほぼ一緒だが使い勝手に違いが
で、その電子書籍版である。紙版をすでに持っている人に使い勝手を紹介しつつ、『記者ハンドブック』の存在を初めて知ったという人にもその概要が伝わるように説明していこう。
まず、入手先は他の電子書籍同様、Amazonの「Kindleストア」、大日本印刷の「honto」、楽天の「楽天Kobo電子書籍ストア」などの電子書店だ。価格は紙版と同じで、税込み2090円。当然のことながら、スマホやタブレット、電子書籍リーダーなどの端末を持っていることが前提だ。今回はiPadにダウンロードして使ってみた。
電子書籍版の一番のメリットといえば、スマホやタブレットに収納できるということ。紙版も決して大きく重いわけではないが、外出先でも執筆作業をしたい人にとって紙版をわざわざ持ち出す必要がないのはありがたい。
内容的には紙版と全く変わりがないが、見た目で大きく違うのは、電子書籍版は横組みになっているということ。
画面の右端をタッチすると次の見開きに移動し、左端をタッチすると前の見開きに戻る。
急いでいるときは画面をスワイプすればページを繰るように素早く移動できる。かなり離れたページに移動したい場合は、画面をタッチすると右下のコーナーに小さなアイコンが現れる。それをタッチするといくつかの機能ボタンが使え、一番上の「目次」ボタンをタッチすると目次が出現して、行きたい項目に飛ぶことができる。
目次にはどんな項目があるかというと、漢字表/人名用漢字/現代仮名遣い/送り仮名の付け方/書き方の基本/句読点/用字用語集/誤りやすい語句/差別語・不快語/地名の書き方/人名の書き方/数字の表記例/全国の市名・区名/紛らわしい会社名/外来語の書き方・・・などなど。基本的には新聞記事を書くためのツールなので、全部が全部、万人の役に立つというわけではないだろうが、まぁ内容が豊富なので、買って損はしないはず。暇なときはいろんな項目を眺めているだけで興味深いという人も少なくない。
文章作成の際に最も参考になりそうなのは「用字用語集」。辞書的に語句が引けて、〔上げる〕と〔挙げる〕、〔勧める〕と〔薦める〕、〔コロナの収束〕と〔コロナの終息〕などの使い分け方も明確に例示してくれる。そのほか、「誤りやすい語句」では、よく使われる表現でも実は誤用という例を教えてくれ、間違った表現で恥をかかずに済む。
検索は WebやWikipediaでも可能に
電子書籍版のもう一つの大きな特徴が、検索ができるようになったこと。画面右下をタッチして出てくるボタンに検索機能があるのだ。例えば〔愛想〕を調べた場合、一発で「用字用語集」のページを探すことができるだけでなく、〔愛想〕に関連するページがすべて出てくるので、「愛想を振りまく」が誤用で「愛嬌を振りまく」が正しい使い方だということも分かる。
また、検索結果のウィンドーの下部には、「Wikipediaで検索」「Webで検索」という欄があるので、インターネットにつながっている端末なら、関連情報をウィキペディアやグーグルで調べることも簡単にできる。
紙をパラパラめくるのに慣れたアナログ人間からすると、調べたい語句を入力するのが少々まどろっこしかったり、検索するのにちょっとしたコツが必要だったりはする。例えば、クリエーティブとクリエイティブのどちらの表記が推奨されているのか調べる時に、両方の語句をすべて打ち込まずに、「クリエ」で検索すれば、クリエーティブだけが出てくるので、こちらが推奨されていることが素早く分かるのだ。まぁ、慣れてしまえばメリットの方が勝ってくるような気はする。そのほか、暗いところでも読めたり、ネット書店でいつでも瞬時に購入できたりというメリットも、電子書籍版ならではだ。
正確な文章を書きたい人にとって、バイブルとも三種の神器の一つとも称される、いわば必携の書『記者ハンドブック』。いつも持ち歩いているスマホやタブレットに入る電子書籍版なら、文字通り「必携」が可能になる。