宗教が現代よりずっと社会の中心的役割を果たしていた時代、キリスト教の修道院が食べものや飲みものの作り手として果たした役割もまた大きかった。伝統的なイタリア菓子のなかでも、修道院発祥の菓子を紹介する『イタリアの修道院菓子』(佐藤礼子著、誠文堂新光社)が8月12日に発行される。
砂糖やスパイスが貴重だった中世ヨーロッパでは、薬草による医療、農業や耕具、食などさまざまな分野での研究と技術向上が修道院で行われ、文化形成に重要な役割を果たしてきた。お菓子作りの技術の発展も、修道院が中心になって担っていたといえる。中でも地中海に突き出した半島であるイタリアは、紀元前から先進国だったアラブ世界や古代ギリシャとの交易も盛んだったため、いち早く新しい食材や菓子技術を得ることができた。
粉のおいしさが伝わる素朴なものや、スパイスや果物の砂糖煮をふんだんに使った貴族由来のものまで、修道院と菓子の歴史について丁寧に解説した資料性の高い内容に加え、レシピも伝統にのっとりつつ、日本でも再現できるような解説になっている。税込み2860円。