未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」。食べること、くらすこと、周りと関わること、ワクワクすること・・・。今のくらしや感覚・感性を見直していく連載シリーズ。
学校を年間30日以上欠席する「不登校」が増え続けている。背景はさまざまだが、本質は子どもの“心身のエネルギー切れ”だ。見守る親も、先の見えない不安を抱える。自身も長男の不登校を経験し、その過程を漫画やエッセーで発信しているイラストレーターの川口真目(かわぐち・まさみ)さんに話を聞いた。
――不登校のきっかけは?
小学4年のときに不登校になりました。もともと私は不登校に偏見がなかったのですが、実際にわが子が行けなくなると驚きました。理由がはっきり分かったのは1年後で、担任の先生との相性がどうしても合わなかったんです。感情的で怒ったり泣いたり、廊下に立たせたりすることもあり、安心して授業が受けられなかった。荷物が多かった息子はクラスの前で叱られ、「みんなの迷惑になる」と言われたことが決定打になりました。
――どうやって回復しましたか?
初期は家から出られず、ゲームしかできない時期が続きました。でも一緒に遊んでいるうちに元気が少し戻り、眼科で診察してもらい、モスバーガーに寄ったり科学館に行ったり。そうした小さな外の経験が回復のきっかけになったと思います。秋には、通っていた塾がフリースクールを始めたことをきっかけに、「暇やし行こうかな」と通い始めました。最初は掃除を手伝ったり、先生と将棋をしたり、買い出しに行ったりしながら、徐々に勉強にも取り組めるようになりました。
学校とも並行して1年間話し合いを続け、冬からの補習クラスだけ参加することになりました。5年生では、怒鳴らない先生のクラスにしてもらえたことで、環境が大きく変化。先生がクラス全体に、「学校に行きたくない日があっても普通。頑張って登校した日に“ズルい”と言われたらどう思う?」と投げかけてくれたことで、不登校いじりのような言葉もほぼなくなりました。息子も「この先生のおかげで学校に行けるようになった」と言い、先生に給食を運ぶ係を自分から買って出るほどでした(笑)。
中学校も考えた末に公立に進み、小学校とよく連携していて、担任の先生も優しい方です。気づけば、息子は園芸部に入っていました。もともとゲームで農業にハマっていて、フリースクールの農業イベントでも「ゲームと全然違う!」と興奮して帰ってきたくらいなので、畑仕事は本当に好きみたいです。園芸部には植物が好きな子が集まっていて、趣味の合う仲間がいて居心地がいい様子。学校に行く理由も「畑行きたいから行くわ」と。家族の役に立ちたいという思いもあるのか、畑で採れた野菜を持って帰れるのがすごくうれしいようです。ある日、忘れられない出来事が起きました。その日はスイカの収穫日だったのですが、テスト前で誰も来ず、先生と息子だけで収穫し、スイカ1玉を抱えて帰ってきたんです。荷物は全部学校に置きっぱなしで(笑)。今もしんどい日は休みますが、自分のペースを守れているのでそれでいいと思っています。息子自身、中学では先生に「その言い方は嫌だ」と自分の意見をはっきり言えるようになっていて、「自分の感じたことを信じていいんだ」と実感しているようです。
――学業の遅れに対する不安は?
私も最初は学業の遅れをすごく心配していました。オンライン授業も試したのですが、うちの子には合わなかったんです。ゲームで目が疲れているところへさらにオンライン授業となると、もうしんどくて。「合う子は合うけど、うちの子には無理だな」と思いました。ただ、フリースクールに通い始めたタイミングで、担当の先生に「小学校の勉強なんて1年あれば取り戻せますよ」とはっきり言われて、本当に安心しました。高卒認定も、高校1年生の夏くらいに取る子が多いと聞いて、「そんなルートもあるんだ」と思えたんです。
その後、家庭教師や不登校支援の先生にもお会いしましたが、皆さん同じように「取り戻せます」と断言されていました。学校の授業はどうしても“だらだら”になりがちですが、プロの先生に見てもらうと、必要なところをギュッと効率よく教えてもらえる。うちの子も、回復してからはフリースクールで勉強を再開しました。
だから今は、学業についてはまったく不安はありません。「元気が回復したら学びは取り戻せる」という専門家の言葉に、本当に救われました。ただ、勉強とか塾って、子どもにとってどれだけ負担になるのかも、息子を見ていてすごく感じました。今、文教地区に住んでいて、周りの子どもたちは毎日のように塾に通っています。もちろん本人が望んでいる場合もあると思いますが、息子も二つの塾に通っていて、「先生も好きだったし楽しかったけど、楽しいから疲れないわけじゃなかった」と言っていたんです。もしかしたらしんどがっている子もいるかもしれないので、気持ちだけでも聞いてあげてほしいと思っています。
――一番しんどかったことは?
あらゆることがしんどいのですが、一番は「学校に行かせなきゃいけない」と思い込んでいる親の気持ち。この“呪い”を緩めるのが本当に大変でした。これが少し緩んでくると本当に楽になるんです。学校に相談しても「自力で頑張ってください」という感じでガイドブックの一つもなくて。自分で価値観を変えるのは難しいので、私はその価値観を持った人たちのところへ行きました。新しい教育やフリースクールの関係者、不登校に詳しい方々に自力で会い、「当たり前じゃない世界」に触れることで本当に安心したし、親のメンタルケアにもなりました。そうやって自分の中の呪いが少しずつほどけていった感覚があります。
――不登校になって気づいたことは?
息子が不登校になり、私も仕事のやる気が丸ごと落ちました。もう一度同じ経験をしろと言われたら嫌ですが(笑)、あの経験がなかったら、習い事をたくさんさせて、息子の「嫌だな」という気持ちに気づけず、我慢だけを覚えさせていたかもしれない。不登校によって「自分の限界はここ。つらい時は相談していい、逃げてもいい」という感覚を小さいうちに学べたのは本当に大きかったと思います。
私自身もすごく変わりました。生まれた時は「生きているだけでありがたい」と思っていたのに、だんだん「勉強させなきゃ、いい学校や会社に行かせなきゃ」と、子どもを“条件付き”で見てしまうようになっていたんだと思います。息子も「親のために学校行かなきゃ。心配させちゃいけない」と思って頑張っていたところがあって。子どもは無条件で親のことを大事にしてくれているのに、親の私は全然無条件で返してなかったなって、ものすごく反省しました。
それ以来、「好きなことを見つけてほしい」と思うようになりました。好きなことは勝手に出てくるので、親はそれを観察して、そっと提案するくらいでいい。小さな興味を示したときに「やってみる?」と声をかけると、思いがけず夢中になることもあります。そんな感じで“好きの芽”を一緒に育てるイメージです。
――不登校のお子さんがはばたくために必要なことは?
不登校の子が回復していく姿をたくさん見てきて、そして息子の経験からも思うのは、落ち込む時期や停滞の時期は“はばたくための準備期間”なんだということ。しんどいけれど、あの時間があるからはばたける。さなぎが羽化するように、いつか必ず変化の時期が来る。まだ幼虫かもしれない時に刺激しすぎると“ぐちゃぐちゃ”になってしまうから、焦らせず、無理に動かさず、そっと見守ることが大切です。
もう一つは、本音が言える環境をつくること。子どもの本音は変化します。「行きたくない」が「行きたい」になることもあるし、その逆もある。息子も、フリースクールにすごく楽しそうに通っていたのに、学校に戻ったとき「やっぱり僕、学校に行きたかった」と言ったんです。それは、今の学校、今の先生だから言える本音なんだと思います。そのときどきの本音を受け止めるためには、怒らない、かぶせない、遮らない。まずは「そう思ってるんだね」と受け止めて傾聴する。そのうえで自分の意見を言えばいい。息子が「僕が“先生が怖い”って言ったとき、お母さんが“気にしすぎやで”って返してたら終わってた」と後から言われました。最初のひと言で、子どもが心のシャッターを下ろしてしまうことがないように。雑談の中で少しずつ本音を見つけていき、その積み重ねが“はばたく力”になっていくのだと思います。
プロフィール
川口真目 1984年生まれ。大阪府出身。2010年から漫画家・イラストレーターとして活動。その後、結婚し、2012年に男の子を出産。「子育てフリーランス」や「不登校」などをテーマに執筆や登壇をしている。子育てフリーランスコミュニティを運営。著書に『名もなき家事妖怪』、『みんなの自己肯定感を高める!子育て言い換え事典』など。
#はばたけラボは、日々のくらしを通じて未来世代のはばたきを応援するプロジェクトです。誰もが幸せな100年未来をともに創りあげるために、食をはじめとした「くらし」を見つめ直す機会や、くらしの中に夢中になれる楽しさ、ワクワク感を実感できる体験を提供します。そのために、パートナー企業であるキッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、雪印メグミルク、アートネイチャー、ヤンマーホールディングス、ハイセンスジャパン、ミキハウスとともにさまざまな活動を行っています。









