「世界はどこに向かうのか」  日米、貿易・為替で懸念消えず

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米フロリダ州でゴルフを楽しむ安倍晋三首相(左)とドナルド・トランプ米大統領=2月11日、米フロリダ州

「米国第一」を掲げたトランプ政権が始動した。多国間の貿易交渉より、2国間の「取引外交」で成果を上げようとする新大統領。大規模な金融緩和による円安批判も飛び出した。日米経済対話がスタートするが、対日圧力の行方は首脳会談だけでは読み切れない。

 

異例ずくめで「満点」

安倍晋三首相とトランプ米大統領の首脳会談は異例ずくめだった。ワシントンでの協議は2時間足らず。フロリダ州のトランプ氏の別荘に泊まり、ゴルフを27ホール回り、夫人を交えた会食を重ねた。
安倍首相にとっては「満点の出来栄え」(内閣官房幹部)の会談だっただろう。個人的な信頼関係を深めるという最大の目的を果たした上、安全保障問題で意見に違いがないことを確認したからだ。
懸案の経済問題も一見、巧みに乗り切ったように見える。麻生太郎副総理・財務相とペンス副大統領を議長とする経済対話の枠組みをつくることができた。新たな協議は①財政・金融政策の協議②米国のインフラ投資、エネルギー、サイバー、宇宙などの分野で協力③2国間の貿易問題―の3本立てでスタートする。
ただ、財務長官に指名されたムニューチン氏、商務長官のウィルバー・ロス氏、通商代表のライトハイザー氏らが就任に必要な上院の承認がまだ終わっていない。各省の次官、次官補といった上級幹部も固まっていない。経済対話のスタートにはしばらく時間がかかるのではないか。

 

官邸の求心力

トランプ氏が日本を同盟国として重要視する姿勢をはっきりさせたのは、会談の大きな成果だ。イスラエル、英国と並び、日本はトランプ政権に最も近い国の一つになった。
電話会談でトランプ大統領に苦言を呈したフランス、オーストラリアは遠ざけられ、カナダ、メキシコとは北米自由貿易協定(NAFTA)の見直し問題でぎくしゃくしている。トランプ氏も国際的な批判は承知している。相性がよく、同盟強化に前向きな安倍首相を厚遇したのは当然かもしれない。
日本側は経済対話を、対米協力策を軸に進めようともくろんでいる。米国の新政権はホワイトハウス主導であり、安倍政権も日米交渉で官邸が求心力を強めることになるはずだ。例えば「インフラ投資は和泉洋人首相補佐官、国際協力銀行の前田匡史副総裁が水面下で動くのでは」(国土交通省幹部)との見方が早くも出ている。
協力案件を前面に出すことで乗り切れると考えるのは少々甘いのではないか。3本柱の一つに「2国間の貿易問題」が盛り込まれたのは不気味だ。トランプ大統領の関心が自動車にあるのは間違いない。トヨタ自動車のメキシコ工場建設に不快感を表明した上、日本の自動車市場が閉鎖的だとも訴えた。

 

摩擦再燃の可能性

「トランプ氏の主張は1980年代半ばで停止している」と論じる専門家もいるが、侮るだけでは何も解決しない。米自動車メーカーは日本市場をもはや相手にせず、中国市場に経営資源を集中している。しかし米国市場で日本メーカーが勢力を拡大するのはできるだけ阻みたいはずだ。
米国の農業団体も、環太平洋連携協定(TPP)交渉で日本から勝ち取った牛肉、豚肉、コメなどの成果を早く実現したい。日本政府は「日米の包括的な自由貿易協定(FTA)は避けたい」という意向だ。だがワシントンのロビイストの間では、こうした戦術を意に介することなく「FTAでなくても個別の産業や農産物の自由化交渉はできるはず」とささやかれている。
通貨問題は、日米双方の財務相が協議することになった。財務省は「これまでと同じように米財務省と協議できる。麻生副総理に頑張ってもらったおかげ」(幹部)とほっとした表情を見せる。
トランプ大統領は円安批判の矛を収めたのだろうか。アベノミクスの原点でもある大規模金融緩和が引き起こしている円安だけに、首相にとっても頭が痛い問題だ。
「トランプ政権は大統領の意向がすべてなのか。制御できる側近はいないのか」(財界長老)。政府内でもこうしたいら立ちや疑問は消えない。貿易、為替を軸とする経済問題は、「安倍・トランプ関係」だけでは解決できない難しさをはらんでいる。

(21世紀金融フォーラム)