混乱か、好機か アフガン駐留米軍撤退

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アフガニスタン東部パルワン州ゴルバンド渓谷で、元ムジャヒディンらで構成する民兵組織=安井浩美氏撮影

 アフガニスタンに駐留していた米軍が8月31日までに完全撤退し、20年に渡る駐留を終える。最大拠点だった首都カブール近郊のバグラム空軍基地からはすでに撤収し、アフガニスタン政府に引き渡した。

 バイデン米大統領は7月8日(現地時間)、「(米軍の活動で)アルカイダは弱体化した」「国家建設に行ったわけではない」と撤退を正当化した。しかし聞こえてくるのは、悲観的なニュースばかりだ。

 アフガニスタン政府と反政府勢力タリバンとの和平交渉は前進していない。米軍撤退から6カ月でアフガン政府が崩壊する可能性があると米情報機関が分析した。タリバンは北部でも支配地域を拡大しており、アフガン政府との激しい戦闘が続いている。隣国タジキスタンが、千人を超えるアフガン政府軍兵士がタリバンに追い詰められて国境を越えたと発表し、政府軍の治安維持能力に不安がある。

 カルザイ前アフガン大統領は7月初旬、英BBC放送とのインタビューで、米国と同盟国は「インフラや教育制度などの再建支援では、良い結果を出した。それには感謝している」としながらも、「過激派やテロとの戦いは失敗に終わった。やるべきことをやらなかったからだ」と述べた。

 いったい、この20年はアフガニスタンにとって何だったのだろうか。筆者がインタビューした母親や少女たちを思い出し、ため息が出た。

 だが、この20年をカブールで過ごしているフォトジャーナリスト安井浩美氏の見方はちょっと違う。都市部の市民は、米軍撤退を気に掛けていないというのだ。

 カブールなど都市部では爆弾テロが頻発しているが、だからと言って米軍が何かしてくれるわけではない。米国は夢にも思わないかもしれないが、市民には「迷惑をかけられた」という思いさえある。カルザイ政権時代に米軍が頻繁に行った、一般市民宅への「夜襲」など、現地の文化や習慣を理解せず人権さえも尊重しない横暴な「テロとの戦い」が印象に強く残っているのだ。それに外国軍の駐留が長いことで、逆にタリバンとの戦闘は激化した。

 米国とタリバンが2020年2月に和平合意してからは、治安維持の約9割は国軍が担うようになった。ビスミラ・モハマディ国防相代理は今、国軍の立て直しに力を注ぎ、大胆な改革にも着手している。注目は「タリバンとの戦いを支援してほしい」と、元ムジャヒディン(イスラム戦士)ら実戦経験のある将校や警察官らに呼び掛けていることだ。

 「タリバンに政権を渡すことが2度とあってはならない」。元ムジャヒディンが立ち上がり、国軍と警察と連携しているという流れが、国内34州のうち20州でできつつある。市民の支持を得て、国軍の士気は上がっているという。

 安井氏は「経済支援はまだ必要」としながらも、「タリバンから祖国を守ろうと、民族の違いを越えて市民が一致団結する姿に今までとは違う何かを感じる」と語った。

 米軍撤退が、アフガニスタンに何をもたらすか。注視していきたい。

ジャーナリスト 舟越 美夏

 

(KyodoWeekly7月19日号から転載)