本年度予算案に計上された米国製巡航ミサイル「トマホーク」の取得費は2113億円。岸田首相が最大400発取得すると国会答弁したこの軍事予算を、高騰する物価対策や子育て・介護支援、道路など老朽インフラの整備費に充てたら・・・と考察するのが、いわゆる“機会費用”の考え方だ。
70年前にアイゼンハワー米大統領が「最新式の重爆撃機1機分の費用があれば、30以上の都市に近代的なレンガ造りの学校を1校ずつ建設できる。6万人に電力を供給する発電所を2基建設できる。完全な設備を備えた立派な病院を2軒建てられる」と述べた演説などは機会費用の分かりやすい適例だ。
アイゼンハワー氏のように「何かを選ぶことによって犠牲になる機会」をよく考えることは、国家予算の編成においてはもちろん、無駄な出費を抑えるために、個人の家計のやり繰りにおいても必要なことだろう。
ただ賢いお金の使い方の指南本(ハヤカワ文庫『無料より安いものもある お金の行動経済学』)などは「ほとんどの人が機会費用を十分に、またはまったく考えない」と指摘する。お金はほとんどのものと交換できるが、その“汎用性”は抽象的で漠然としているため「お金を使うときは、買おうとしているもの以外の具体的なものは頭に浮かばない」人が多いという。
アメリカン・エキスプレス・インターナショナル(東京都港区)が3月10日に東京オフィスで開いた女子高生向け金融教育ワークショップは、これから本格的に家計をやり繰りする人生に向かう若い人が、機会費用などお金のことを考える際に大切なことを学ぶ一助になったようだ。
参加した静岡女子高(静岡市)の商業科1~2年生40人余りは、自ら設定した年齢、家族構成、年収を前提に、住宅費や光熱費、食費、被服費、医療費、貯蓄、外食、旅行・レジャーなどの17の支出項目に数字を入れるシミュレーションに挑戦し、家計のやり繰りを模擬体験した。
年齢は43歳、10歳の子ども1人の3人家族、年収265万円の生活条件を設定した2年生の生徒(17)は「旅行・レジャーのため、洋服代を削った。お金のことは漠然としか考えられなかったが、将来の生活をイメージしながら具体的に考えることができた」と話す。この生徒の場合は家族旅行を優先して最新服の購入を断念したか減らした。何かを選ぶことによって犠牲になる機会費用をしっかり吟味している姿勢がうかがわれる。
参加者の中には一戸建てか賃貸住宅かの選択など支出項目の振り分けに悩む生徒もいたが、ワークショップに参加した“人生の先輩”であるアメリカン・エキスプレス・インターナショナルの社員の助言を得ながら、悩みながら各項目の支出額を決めていった。
生徒を引率した静岡女子高商業科長の丸山ルミ子さんは「お金に対して漠然としたイメージしかない生徒たちがお金のことを具体的に考える良い機会になったのでは」と話した。
食品、光熱費など値上げラッシュが続く昨今の物価高騰に見合った賃上げが一部大企業にとどまっている現状では、家計のやり繰りにおいて、機会費用の考察は今後ますます必要となるかもしれない。