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【コラム】消防の活躍と文化財の危機管理 映画『ノートルダム 炎の大聖堂』

(C)2022 PATHE FILMS - TF1 FILMS PRODUCTION - WILDSIDE - REPERAGE - VENDOME PRODUCTION
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 世界遺産でありゴシック建築の代表作でもあるパリのノートルダム大聖堂の火事は、渡仏経験やキリスト教との関係の有無にかかわらず、多くの人に衝撃を与えた。ちょうど4年前、復活祭の季節であるというのに、テレビやネット上にどんどんアップされる映像の中の大聖堂は燃えていた。言葉を失った。何がどうなっているのか。それを再構成した映画『ノートルダム 炎の大聖堂』(ジャン=ジャック・アノー監督)が公開された。

 新任の防災警備担当者が火事を検知するアラームに驚き、上司に連絡を入れるところから話はスタートする。大聖堂の尖塔が崩れ落ちる映像を知っている観客には、ストーリーも結末も見えているが、“何がどうなっているのか”とあの日に感じた「始まりと終わりの間」がつまびらかにされていく。

 もちろん火事の原因が確定されるわけではないが、建物だけではなく、大聖堂の中にある多くの文化財を“救済”するために必要な情報や人、モノなどの危機管理に関わる問題点が次々に提示されていく。あまりに重要な文化財ゆえに、厳重過ぎる管理や保管方法、場所が救出の障壁になり、さまざまな偶然や悪条件が重なる。映画の脚本だから“盛っている”のかと思ったら、ほぼ事実に沿っているという。日本の文化財の危機管理体制はどうなっているのだろう?と観ながら考えざるを得なくなってくる。

 作品の柱は消防隊員たちの活躍。報道や多くの市民に呼び掛けて集めたSNSの映像など、ホンモノを織り交ぜた110分は、結末を知っていても手に汗握る。800年近い歴史を持つ世界遺産から火の手が上がり誰もが動揺する中、「消防士の使命は命を救うことで、石を救うことではない」と隊員たちの安全を考えることができるパリ消防の冷静さが際立って印象的だった。