『春に散る』(8月25日公開)
不公平な判定で試合に負けたことをきっかけに渡米し、ボクシングをやめた後はホテル業界で成功した広岡仁一(佐藤浩市)が引退し、40年ぶりに帰国した。一方、黒木翔吾(横浜流星)は、同じく不公平な判定負けを喫してグレていた。
2人は、偶然居合わせた飲み屋でのトラブルから、路上で拳を交わす。仁一に人生初のダウンを奪われた翔吾は、ボクシングを教えてほしいと懇願する。
心臓に病を持つ仁一は、最初は断るが、かつてのボクシング仲間である佐瀬(片岡鶴太郎)のアドバイスもあり、引き受けることに。仁一は翔吾に激しいトレーニングを課し、ボクシングを一からたたき込んでいく。
やがて翔吾は、仁一の古巣のジムに所属する大塚(坂東龍汰)を破って東洋太平洋チャンピオンとなり、世界チャンピオンの中西(窪田正孝)とのタイトルマッチが決まるが…。
沢木耕太郎の同名小説を瀬々敬久監督が映画化。沢木といえば、『敗れざる者たち』(76)『一瞬の夏』(81)『王の闇』(89)など、ボクシングを扱ったルポルタージュの著作が数多くある。
タイトルの関連性もあり、翔吾と仁一のモデルは、『一瞬の夏』のカシアス内藤とエディ・タウンゼントだろうと思ったが、小説の骨格は、高倉健をイメージして書いた映画のシノプシスが基になっているという。
さて、映画の方は、登場人物の性格描写の弱さ、先に公開された『クリード 過去の逆襲』同様、マッチメークがとんとん拍子に進み過ぎる点には甘さを感じさせられたが、横浜、坂東、窪田のリアルなボクシングシーンが、それを補って余りあるものにしていた。
一方、ボクシング経験者の鶴太郎はさすがの動きを見せるが、佐藤がやつれて動きが鈍く見えたのは役作りのせいだったのだろうか。
また、『あゝ、荒野』(17)『アンダードッグ』(20)『生きててよかった』(22)といった最近のボクシングを扱った映画が、ボクシングとセックスを無理やり結びつけて描いているところに違和感を覚えたが、この映画は久しぶりにストレートなボクシング映画になっており、好感を持った。