「インファナル・アフェア」シリーズなどで知られる香港の名優アンソニー・ウォンがタクシー運転手を演じ、香港を舞台に、難民の少年と心を通わせる姿を描いたヒューマンドラマ『白日青春-生きてこそ-』が、1月26日から全国公開された。公開を前に来日したアンソニー・ウォンに話を聞いた。
ー最初にこの映画の脚本を読んだ時にどう思いましたか。
脚本を読んだ時は、このプロットなら映画化は可能だと思いました。ただ、物語のディテールの部分では、論理的につじつまが合わないところが結構あったので、そこは直さなければと思いました。
ーでは、監督と話し合いながら役作りをしていった感じですか。
そうですね。人物像については、脚本の中にある程度描かれていたので、私が新たに何かを作るということはなく、ただ演じるだけでいいという状況でした。今回の役は、外見をどうするかがとても大事でした。この映画の中の私は、実際の年齢よりもはるかに老けています。
ーこの映画には、難民や移民、不法滞在など、さまざまな問題が描かれていましたが、日本では、こうした香港の実情はあまり知られていないので、この映画を見て初めて知る人も多いと思いますが、ウォンさんは、こうした問題についてどうお考えでしょうか。
香港に住む者にとってはよくある話ですから、普通の出来事だと受け止めていますが、逆に、今回日本の皆さんのお話を聞いていて、とても不思議に感じました。日本の皆さんは、よその国で今何が起こっているのかを、あまり知らないんですね。これにはちょっと驚きました。何となく台湾の状況と似ていると思いました。これはあまりいいことではないと思います。私も、どうして日本はこうなるのかを研究してみたいと思います(笑)。
ー今回は難民の少年とのやり取りがとても印象的でしたが、彼との共演はいかがでしたか。私は、2人で海に入ろうとするけど、冷たいのでやめて、砂浜で語り合うちょっとユーモラスなシーンがとても印象に残ったのですが…。
これはすごくいい質問です。実は、あのシーンには二つのパターンがありました。最初のパターンでは、私たちが一緒に海の中に入って、泳げないあの子に私が水泳を教えるんです。そして海から上がって、砂浜に座って、いろんな話をするというものでした。水泳を教える目的は、あの子が乗った船が万一沈没してしまった場合は、ひたすら泳がなければならないからです。でも私は、このシーンのポイントは、泳ぎを教えることではなく、2人が砂浜に座って語り合うところだと思いました。それに、夜の現場は暗くて寒くて、海に入って水泳を教えるのには危険がありました。だから監督に「この場面は、砂浜に座って、せりふも少しユーモアのあるものに変えて演出をした方がいいのでは」と言いました。監督もそれを受け入れてくれてあのシーンが生まれました。だから今、「ここを見てくださったのか!」と思って、すごくいい質問だと言ったわけです。
ーウォンさんが演じた白日のせりふで「俺はより良い場所に住みたいだけなんだ」「俺はいい人になりたいだけなんだ」というのがありましたが、それが中国の本土から香港にやって来たり、パキスタンから移民してくるというこの映画のテーマを言い当てていると思いましたが。
おっしゃることはよく分かりますが、この男は普通の人と比べると、とても駄目なやつなんです。人生において失敗したにもかかわらず、反省もせず、仕事も家庭もうまくいかない。そのくせ、俺は一番偉いんだみたいなことを考えている。だから、嫌な感じの男なんです。でも、ほんの少しはいいところもある。だからこれは、普通の人が「将来はもっとより良いところで暮らしたい。いい人間でありたい」という希望を持つのとは違って、駄目なやつが語った愚痴のようなものだと思います。