高知県の最北端で愛媛県との県境に位置する大川村。平家平や大座礼山など、周囲を標高1000m級の山々に囲まれ、吉野川を境に南北に16の集落が広がり、約360人が生活をしている。約9割が山地で、平坦な土地が少ない大川村は、山々からの青く澄んだ湧き水が人々の生活を支えているとともに、山里の美しい自然を守っている。
大川村は、1971年の早明浦(さめうら)ダムの建設により、役場を含む中心集落がダム湖の底に消えた。72年には銅などを産出した白滝鉱山が閉山。人口減少が続く中、村民が一体となり地域を守るさまざまな活動を進めている。産業面では、ブランド地鶏の「土佐はちきん地鶏」の養鶏を開始。平飼いで80日以上育てた地鶏は、運動量も多いため、脂肪分が少ないのが特徴。村で徹底した管理のもと加工から販売までを行い、雇用を創出している。また、年間わずか50頭しか出荷されない幻の「大川黒牛」。柔らかい肉質と上質な脂のバランスが整った大川黒牛は希少で、ぜひ地元で食べてみたい逸品だ。
■「どっぷり高知旅コンテスト」にも選ばれたトレッキングツアー
大川村のやや西側に位置する「井野川集落」。吉野川から北の山に向かって縦長に広がる集落には、急こう配の斜面に家が点在し、棚田や茶畑、竹林など昔ながらの美しい風景が残る地域だ。
井野川集落では、山里を歩き、その自然や土地の人々との交流を通じて、村の魅力を伝えることを目的とした、トレッキングツアー「大川村の山里歩き~井野川たてなが集落~」が約8年前からスタート。ツアーは約4.5kmのコースで、山道と舗装路が半々。集落内の標高差は約380mもあり、食事や休憩を入れながら5時間半かけて、ゆっくりと集落をめぐる。2024年3月に県内で行われた「オススメどっぷり高知旅コンテスト」で、応募があった166件の体験型企画の中から、本ツアーも入賞した。
トレッキングツアーのコースは、吉野川を起点に昔の生活道を登るところからスタート。道なき道を登りはじめ、頭上に突然現れる「大岩」、「地主神社」「ミニ八十八カ所」に進んでいく。「ミニ八十八カ所」は、井野川集落の村民が長きにわたり大切にしてきたパワースポット。村は山の急斜面にあるため、お遍路に行くのも大変だ。身近で参拝ができて功徳を得られるよう、集落内に小さな八十八カ所が作られたとのこと。現在の「ミニ八十八カ所」は数十年前に土砂災害で埋まってしまった石仏を、住民が協力し探し出したものを、1カ所に集めたもの。ガイドなしではたどり着けないミニ八十八カ所で、静けさと澄んだ空気に包まれ、石仏さまに癒やされる。
休憩をはさみながら、さらに竹林や森を歩くと、視界がパーっと広がり、数軒の家とケヤキの大木が現れる。ケヤキの下では、待ち焦がれたお昼ご飯の時間。山々の絶景を眺めながら、はちきん地鶏と大川黒牛や地元の野菜が入った、炊き込みご飯のおにぎりを頬張る。ツアーは標高760m付近まで登ったところで集落を下っていく。
ツアーの魅力は、井野川集落の豊かな自然や昔ながらの風景はもちろんのこと、この土地に住む人々との交流だ。民家の玄関先や庭を通れば、軒先で日向ぼっこをしているおばあちゃんと出会えることも。道で地元の人とすれ違えば、会話が始まる。昔ながらの風景に包まれながら、気さくな村民のみなさんと交流することで、訪れた人々の記憶に刻まれている故郷の思い出がよみがえる。極上の田舎とは、そのきっかけになる場所かもしれない。
ガイドを担当する(一社)大川村ふるさとむら公社の近藤京子さんは、大川村で生まれ育った。近藤さんは「昔の道を歩くことで、自然やその生活をみなさんに知ってもらいたい。子どもたちにも、大川村をもっと好きになってもらうために村の魅力を伝え続け、若い人と一緒に大川村を未来に受け継いでいきたい」と意気込みを語る。
「大川村の山里歩き~井野川たてなが集落~」ツアーは、集落の自然や暮らしを案内するだけでなく、土地の人々を見守る活動にもなっている。県内外の人がたくさん訪れ、ツアーが頻繁に実施されれば、集落に住むお年寄りを見守る機会も増える。おじいちゃんやおばあちゃんたちは、きっとキラキラした笑顔で迎えてくれるに違いない。
問い合わせは、(一社)大川村ふるさとむら公社(TEL:0887-84-2201)まで。筆者の経験から、トレッキングシューズの着用がおススメだ。