はばたけラボ

【はばたけラボ 先輩に聞く】 楽しみながら、新しいモノを生む カシオの山田真司さん サウナー向けの時計を開発

時計の中身の構造を設計するエンジニアとして働く山田さん(カシオ提供)

 未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」。食べること、くらすこと、周りと関わること、ワクワクすること・・・。今のくらしや感覚・感性を見直していく連載シリーズ。

 電子機器メーカーのCASIO(カシオ)で、精密な時計内部の設計を担当する山田真司(やまだ・しんじ)さん。設計者の道を選んだ理由ややりがい、仲間とともにやり遂げた大きな挑戦について聞いた。

――どんな子どもでしたか。カシオを職場に選んだのは。

 小・中学生のころから機械や歯車などが好きで、周りにあるいらなくなった家電やネジを巻いてガチャガチャ動かすおもちゃを、古くなって捨てる時にごみ箱から探しだして、分解して遊んでいました。カシオのデジカメもプラスドライバーできれいに分解していました。

 高校は理系専攻。数学や物理が得意だったので、大学の工学部機械科に進んだんです。2年生ぐらいからインターンや工場見学で20社以上を回り、カシオには5日間ほど行きましたが、(就職の)決め手は社内の雰囲気がよさそうだったこと。兄から贈られたカシオブランドの腕時計「G-SHOCK(ジー・ショック)」を着けていて、親近感もありました。

――現在の仕事の内容を教えてください。

 時計の中身(歯車や基板などといった中枢の機構をなす部分)を設計する部署にいます。時計には、米粒ぐらいの大きさや、顕微鏡でしか見えないサイズの歯車も使っているんですよ。つくった時計の試験をして品質を評価する役割も担っていて、G-SHOCKの耐久試験なども行います。幼いころから興味がある分野なので、やっぱり楽しい。自分が設計を担当した腕時計を買った人が書いたレビューや、実際に身に着けている人を目にすると、うれしいし、やりがいを感じます。

「サ時計」(左)は、12分計と通常の時計の両機能があり、サウナ内で使える。開発当初は、ロッカーキーと一体化した形状(右)も試作した(カシオ提供)

――最近、市場では珍しい、サウナー向けの時計を開発したそうですね。

 「サ時計」と名付けた腕時計で、設定温度100℃までのサウナで、腕に着けて最長15分利用できます。特徴的なのは、12分計(長い針が12分で1周、短い針が1分で1周する)と、現在時刻が分かる通常の時計の両機能を、ボタン一つで切り替えられること。

 サウナブームのなか、「壊れてもいいや!」と自己責任でG-SHOCKやスマートウオッチを高温多湿な環境に持ち込んでいる人は少なくない。僕自身もサウナーですが、視力が悪く、サウナ内に12分計があっても見えない上、現在時刻を知りたい時は、いちいち更衣室の時計を見に出るしかないことも。それなら、サウナでの使用が保証できる時計を作ったら面白いのでは、と思ったのが、はじまりです。入社2年目の2021年から3年半で商品化しました。

――山田さんをプロジェクトリーダーに、同期4人のチームで商品化したと伺いました。

 社内の人材育成プログラム「IBP(Idea Booster Program)」を活用し、外装設計、デザイン、実装設計、ソフト開発をそれぞれ専門とする同期でチームを組みました。大企業は役割で業務が分かれ、持ち場の仕事が終われば次の部署に渡すというのが普通ですが、このプログラムでは、企画から市場調査、設計、生産工場との調整、営業まですべてを1チームで担います。販促イベントも自分たちで考え、プロモーションビデオにはメンバーもエキストラとして出演しました。

(左から)外装を設計した小林義弘さん、デザイン担当の鈴木千裕さん、実装設計の山田さん、ソフト開発を担った百貫将吾さん(カシオ提供)

 工場に何度も出向いて調整したり、初期不良品が出た際に緊急対応したりと大変でしたが、通常の仕事だけでは絶対に得られない良い機会でした。法務、物流、営業などエンジニアの自分がふだん関わらない部署の方々と交流できたのも貴重です。協力してもらった関連部署の約20人とサウナを貸し切り、サ時計の使用を検証したことも。テストマーケティングとして取り組んだ昨年12月のクラウドファンディングでは、わずか9分で2200台が完売し、すごくうれしかったです。

――どんなエンジニアになっていきたいですか?

 商品づくりの最初から最後まで携わったエンジニアは、あまりいないと思うので、経験を生かし、新しい商品を提案したり、アイデアを出したりできればと思います。サ時計も、今はロッカーキーと一緒に二つを腕に着けなければならないので、次は、キーと一体化したものを実現したい。

 一緒にサ時計を開発した同期のチームメンバーとは、仲良くサウナに行きながら、これからも協力していきたいですね。コロナ禍に入社した同世代ですが、気軽に何でも聞けるつながりはけっこう大事だと感じます。

——最後に、ヒトが人になるために必要なことは?

 「楽しむ」ことだと思っています。大学の勉強も、仕事も、楽しみながらやってきました。楽しくないと感じると、あまり長続きしない。サ時計の開発も、サウナが好き、楽しい、自分も欲しいといった気持ちを最初から最後まで持っていたから、苦労を乗り越えられました。楽しむことで、新しいものをこれからも生んでいきたいです。

 山田真司(やまだ・しんじ)/1998年生まれ。長野県出身。富山大学工学部卒業。2020年、カシオ計算機に入社。時計事業部の時計開発統轄部・設計部実装開発室に所属し、時計の中身の構造設計を担当している。

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