
全国新酒鑑評会で高い金賞受賞率を誇る土佐酒。近年は高知酵母を生かしたフルーティーな酒も増え、その味わいは多様化している。その品質を支えるのは、蔵同士が発酵データを共有する独自の「高知方式」だ。オリジナル酵母の開発や酒米精米工場の存続を支えた「なかま」の力から、土佐酒の強さを探った。
▼高知方式
「こうすれば成功する、こうすれば失敗するということをお互いに勉強し合いながら酒造りをする。それをやっているのは全国でも高知県だけです」。高知県酒造組合で技術顧問を務める上東治彦さんの話だ。元・高知県工業技術センターの醸造技術者として、長年、酒造りの指導や酵母開発の最前線に立ってきた。
高知には、初対面でもすぐに盃(さかずき)を交わす「献杯」「返杯」、大皿料理をみんなで分け合う「皿鉢(さわち)料理」、街全体が巨大な宴会場と化す「おきゃく(宴会)」など、人と人の距離を一気に縮める独特の酒文化が根付いている。その開放的な気風は酒造りにも表れ、現在、土佐酒19蔵が実践する「高知方式」と呼ばれる独自のスタイルを生み出した。
かつて全国新酒鑑評会の金賞を取れるのは特定の名門蔵に限られていた。しかし、「みんなで良いものが出来たら業界全体が盛り上がる」という思いから、大手と中小の垣根を越え、発酵データを共有する取り組みへとかじを切る。県工業技術センターが、各蔵のもろみの発酵状態などを毎週分析し、数値化して発表。当初は匿名だったが、やがて蔵名もオープンにして互いの発酵データを参考にしながら酒造りに生かすようにした。これにより土佐酒の品質は大きく向上し、全国新酒鑑評会では、12年間の金賞受賞率で全国3位となった。

▼オリジナル酵母
土佐酒の進化を支えたもう一つの柱が、上東さんらによるオリジナル酵母の開発だ。小規模蔵から「自分たちでも使える吟醸用酵母が欲しい」との声が上がり、酵母開発に乗り出した。なかでもフルーティーな土佐酒の先駆けとなった「CEL-24」を巡る誕生劇には、印象的なドラマがある。1990年代、高木酒造へ「香りの弱いバナナ系の酵母」を渡したつもりが、取り違えによって「香りの強いリンゴ系の酵母」CEL-24で仕込みが行われていた。蔵とともに頭を抱えたが、とにかく売ってしまわねばと、試行錯誤の末、その特徴を生かした香り高い甘口の微発泡酒を作り上げた。これがのちに「いとをかし」として定着し、土佐酒の新たな可能性を広げた。
土佐酒は元々、「たくさん飲める酒」を求める高知の文化を背景に、強い発酵力によるキレの良い淡麗辛口が特徴だった。だが近年は、高知酵母の進化によって、リンゴ酸を生かしたフルーティーな甘口酒など、多彩な味わいが広がっている。
本来、高知は温暖で酒造りに適した環境とは言い難い。それでも徹底したデータ分析と科学的アプローチでうまい酒を醸す。その原動力にあるのは、「なかまと楽しく飲みたい」というシンプルな思いだ。


▼なかま
その「なかま」の力が発揮されたのが2023年、県内唯一の酒米精米工場が閉鎖危機に陥ったとき。酒造りの基盤を守るため、高知銀行グループの「地域商社こうち」が事業を継承し、「こうち酒米精米工場」が誕生。代表取締役として着任した元銀行員の竹内清彦さんは、再スタートに当たり、最新の「原形精米」設備を導入した。従来の「球形精米」より少ない精米でも品質を高められる技術で、県内の酒蔵も新たな取り組みに協力。工場の精米量が前年の約1.6倍に増加した。
土佐酒の発展を陰で支えてきた上東さんは、「若い世代がしっかり育ち、新しい酵母や酒米の開発を続けてくれている」と今後に期待を寄せる。情報をシェアし、支え合う。酒蔵だけでなく研究機関や精米工場、金融機関までが加わった「なかま」の力が、土佐酒を次の時代へ押し上げている。








