カルチャー

天照大御神のご威光 【辛酸なめ子 コラム 直線・曲線・斜め線】

 1300年以上続く伊勢神宮の式年遷宮の儀式。20年に一度、天照大御神に新宮へお遷りいただくお祭りで、次回は令和15年の予定です。その日に向けて、伊勢の住民(旧神領民)が中心となってさまざまな民俗行事を行うのですが、先日、神社本庁のツアーでお木曳行事というものを体験させていただきました。新しい社殿を建てるための御用材を、綱で引っ張って外宮に奉納する、というもの。江戸時代、お伊勢参りは一生に一度の憧れでしたが、遷宮のための奉仕活動に参加できるなんて、きっとご先祖も喜んでいることでしょう。

 当日は朝早く二見興玉神社に参拝し、身を清めて臨みました。参列の決まりは白装束。一体どの範囲の白なら許されるのか、アンミカさんの「白って200色あんねん」というセリフがよぎりつつ、お店を何軒か回って白いシャツ、パンツ、靴など買い揃えました。さらに法被や鉢巻きを身につけた全身白装束の人が600人以上集合。やんごとなき御用材は1.5トンで、乗せて運ぶ奉曳車は約4トン。割ると1人あたり約9キロとそこそこの重さです。両脇に2列に分かれて、車につないだ綱を引っ張っていきますが、天気が良くてかなりの暑さで、少しずつしか進めないので体力を消耗していきます。列の真ん中で先導役が「木遣り唄」を歌い、合いの手を入れて一体感を高めます。やはり日本人は協調性が大事な民族なのかもしれません。「お木曳きのかけ声は『エンヤ!』」と決まっています。途中「エンヤ!」なのか「エイヤ!」なのか分らなくなって迷いましたが、「ン」の方が力が入りやすいことを実感。奉曳車の車輪から「ボーッ」と法螺貝のような音が響き、魔除けのパワーを感じました。

©️2026 Nameko Shinsan

 一時間ほど縄を曳いて無事に伊勢神宮の外宮に到着。他の参加者さんが「綱はただ触るくらいだった」と話していましたが、私は結構重みを感じたので、奉仕できた満足感に浸りました。ゴールすると地元のボランティアの方々が「お疲れ様でした!」と労ってくださり、給水所やお菓子配布所までありました。「お木曳き」でマラソン大会に参加したような達成感が得られるとは。「お木曳き」という奉仕活動で神様の御利益が得られるかもしれない、とつい期待していましたが、お茶やお菓子やバナナをもらえただけでも十分ありがたいです。しばらく日焼けで顔や手が火照っていて、天照大御神のご威光の余韻を感じました。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.26からの転載】


辛酸なめ子(しんさん・なめこ) 漫画家、イラストレーター、コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美大短期大学部卒業。著書に『女子校育ち』(筑摩書房)、『スピリチュアル系のトリセツ』(平凡社)、『電車のおじさん』(小学館)、『大人のマナー術』(光文社新書)など多数。近著に『この人生、前世のせいってことにしていいですか』(幻冬舎文庫)がある。