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人権守る戦略人事の時代到来 事業国際化で人事の役割高度化 EY行政書士法人代表語る

インタビューに応じたEY行政書士法人統括代表社員の木島祥登さん

 近年の新型コロナ感染拡大やウクライナ、中東での紛争は、海外事業を手掛ける日本企業に対し、現地社員の退避など安全確保策の課題をあらためて突き付けた。15年前の東日本大震災では日本で働く外国人社員を帰国させる対応に追われた日本企業もある。

 長年入管手続きや海外赴任に関する諸課題などへの対応策を日本企業に助言してきたEY行政書士法人統括代表社員の木島祥登(よしと)さん(50)は「ビジネスのグローバル化で戦争・災害時の安全確保や海外赴任者の家族、文化の異なる外国人社員への対応など、人を扱う人事部門の役割は質的に高度化しています。一言で言えば人権を念頭においた”戦略人事“の時代を迎えています」と話す。事業のグローバル展開に伴う人事部門の新たな課題などについて木島さんに聞いた。

―海外赴任の新たな課題は。

 最近は帯同した配偶者が現地で仕事することを希望するケースが目立ちます。その場合のビザ(査証)や就労許可等の扱いなどの問い合わせが企業から増えています。お子さんがいる場合は、学校選択の配慮も求められます。

―海外赴任者の対応で大切なことは。

 海外赴任者のモチベーション(動機付け)にも影響しますので、ご家族のニーズを満たせるかという観点からも考えることが大事になります。昔の海外赴任は「次はお前の番だ」というふうにローテーション(順繰り)で回していた面がありますが、今は違います。現地や日本本社にとって必要な人を赴任させます。配偶者と子どもを帯同し、配偶者は現地で働き、子どもは現地の学校で学ぶ。このようなケースは人事でイミグレーション(入国審査)、税務、労働法などの問題を事前に調べておかなければなりません。

―海外赴任者本人や配偶者の妊娠・出産に関する産休、育休などの扱いは。

 この点もしっかり事前に準備することが必要です。本人の妊娠出産、帯同配偶者の妊娠出産、日本在住配偶者の妊娠出産、それぞれのケースを念頭に赴任者が帰国する場合の業務の引き継ぎ対応や現地の法制度、家族の在り方の変化を踏まえて、人権の観点も忘れず、海外赴任者家族を支えるという姿勢が大切です。

―海外赴任者の配偶者が働く場合に注意すべきことは。

 リモートワークの普及で、例えば、配偶者の海外赴任に自社の社員が帯同する際、海外に行った社員が日本本社の仕事をオンライン勤務の形で続けることを希望するケースが増えてきます。時差があると日本時間では毎日深夜に仕事するようなことも想定され、労働時間の把握の論点が出てきます。

―海外赴任は家族のことも含め人事部門が事前に整理しておくべき論点が多いですね。

 コスト面も含めいろいろな課題があります。事前に論点を整理して社内制度的な仕組みを準備しておくべきですが、実務的に取り組もうとすると「言うは易(やす)く行うは難(かた)し」の世界です。しかし、家族の在り方や男女問わずキャリア形成に関する考え方は変化していますので、しっかりした対応が必要です。基本的には社員が日本にいる場合と同水準の生活水準を一つの目安としつつ、赴任地ごとの物価や生活環境の違いを踏まえ、赴任者及び帯同家族が安心安全に生活できるよう配慮した対応が大切と考えています。海外赴任で本人、家族の生活の質が下がることがないようにというのが基本です。

―紛争地での社員の安全確保上の新たな課題は。

 今回のアメリカ、イスラエルとイランの紛争、いわゆる中東情勢の例だと、どの部署が“司令塔”になって現地撤退を含めた避難対応をするか、少し混乱したようです。司令塔は本社か海外拠点か、あるいは本社の人事部門か事業部門か、経営企画的な部門なのか。また誰が今どこの国にいて、ご家族がどんなビザを持っているか、ビザや就労許可などの有効期限をはじめ退避の際に必要となるデータをしっかり集約しておくことが大事です。また全面撤退なのか、誰か残しておくことは可能なのか、可能な場合に誰を現地に残すのか、すぐ対応できるようにある程度決めておいた方がいいと思います。

―そのほかの新たな課題は。

 短期の海外出張者の把握です。海外赴任者の場合は人事部門が把握していると思いますが、海外出張者の場合は各事業部系だけで把握している場合が少なくないと思います。また出張者の現地判断で臨機応変に他国に移動する場合もあります。その海外出張者の移動情報は人事部門に入るとは限りません。外資系企業は国際ローミング(国際通信システム)を活用して海外出張者の情報を把握する場合もありますが、日本企業ではそれほど活用していないと思います。

―一時避難や帰国、第三国への出国などの場合にあらかじめ踏まえておくべきことは。

 最近家族の在り方が多様化していますので、海外赴任者が現地の人と国際結婚している場合に日本に帰国する際、その現地の配偶者のビザの扱いなどが課題となってきます。日本人の海外赴任者が日本人の配偶者・子どもを連れて避難するという従来のモデルだけを前提とした準備のみでは不十分です。国際結婚のケースや多くの国で法的に認められている同性婚のケースなども想定した避難計画が必要です。同性婚の認められている国から、同性婚の認められていない国へ避難する場合などの配慮もあらかじめ考えておくべきです。

―日本で災害が起きた時、外国人社員の安全確保対策はどうあるべきですか。 

 災害時は外国人特有のニーズへの対応が必要になることがあります。日本語が不十分な人には避難情報がきちんと伝わる工夫が必要です。2011年の東日本大震災の時は、日本採用の外国人も含めて安全確保のためすべての外国人を帰国させたケースもありました。こういうことも起こりえますので、事業継続の観点からも災害の対応指針を事前設計しておかなければならないと思います。

―人事部門が事前に考えておくべきことは少なくないですね。

 日本企業は海外に現地法人がある場合、有事や災害の対応を現地法人に任せる傾向にありますが、グループ全体の社員の安全確保には本社がしっかり責任を負わなければいけない。今「ビジネスと人権」や「人権デューデリジェンス(人権侵害のリスクを調査し改善する取り組み)」が大きなテーマになっていて、自社にとどまらず、グループ全体やサプライチェーン(供給網)に至るまで取り組みが求められています。人権を考えた戦略的人事が必要です。

人事部門による人権デューデリジェンスの必要性を強調したEY行政書士法人統括代表社員の木島祥登さん=東京都千代田区、2026年6月8日

―在留手数料の値上げをはじめ外国人の在留資格が厳格化されていますが、企業側の反応に変化はありますか。

 入管法をはじめ外国人雇用に関するコンプライアンス(法令順守)に今まで以上に敏感になっているような気がします。入管法だけでなく、労働基準法など労働法制に関する当局の運用厳格化を感度の高い企業は敏感に感じているはずです。昨年、労働安全衛生法違反で罰金刑が確定した大手企業が、外国人の「技能実習」や「特定技能」の受け入れを5年間停止される処分を当局から受けました。先ほど述べたように「ビジネスと人権」や「人権デューデリジェンス」が大きなテーマになっています。労働法制は人権に深く関わる分野ですから、製造現場や事業部門がこれまでと同じような意識だと、当局から労働法の各種法規違反を摘発され、技能実習(4月からは育成就労も含む)や特定技能の形で外国人の受け入れができなくなってしまうリスクも考えなければなりません。人権という視点から全体を見通せる人事部門の見識が問われてくると思います。ビジネスのさらなる国際化に伴い、人事部門による人権デューデリジェンスの重要性が今後、年々高まるでしょう。