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「どうする家康」第37回「さらば三河家臣団」北条攻めが浮き彫りにした時代の変化に適応する難しさ【大河ドラマコラム】

 その中で家康が、なんとかことをうまく運ぶことができたのは、その苦しい胸中を察した本多正信(松山ケンイチ)のおかげだ。正信は小田原攻めの前に、大久保忠世(小手伸也)にひそかに事情を打ち明け、家臣たちの説得を依頼。これにより、小田原攻めの後、家康が国替えを伝えた際も、混乱なく事態を収めることができた。ひたすら家康に従ってきた他の家臣たちと違い、一向一揆で家康と敵対して追放されるなど、人生の重大局面を乗り越えてきた正信だからこそ、果たすことができた役割といえるだろう。そうした家臣たちに恵まれたことも、家康が戦国を生き延びた秘訣(ひけつ)だったのかもしれない。

 だがその一方で、時代の変化に適応できず、敗れ去った北条氏政が愚かだったとは思わない。時代の流れに逆らって自分の信念に殉ずることも、人生の美学として十分尊重に値する。振り返ってみれば家康自身だって、少し前までは秀吉への臣従をためらっており、一歩間違えば徳川も北条と同じ運命をたどっていたかもしれないのだから。その重大な局面を乗り切れたのも、石川数正(松重豊)の出奔があったからで、やはり家康は家臣に助けられていると言わざるを得ない。

 その家康も、国替えによって、これまで支えてくれた家臣たちと離れ離れになった。江戸に移った家康がこれからどんな道を歩むのか。時代の変化に適応する難しさを考えさせられると同時に、その局面を乗り越えた家康の今後が気になる回でもあった。

(井上健一)