時系列を整理してみると、家康はこの忠次とのやりとりの後、三成から合議制への協力を求められたことになる。すると、「無論。引き受けます」という三成への答えが、家康の本心だったのか、やや疑問が湧いてこないだろうか。実は家康の中では、すでに秀吉の後の天下を取る野心が芽生えつつあったのではないか…?
しかも、その後の家康と秀吉のやり取りを知らない三成は、今も家康が合議制を支えてくれると信じているに違いない。この時点で既に、信頼し合っていた2人の間に、微妙なすれ違いが生じているようにも思える。ただ、ラストで忠次とのやり取りを回想した家康は、同時に合議制への夢を語る三成のことも思い返していた。ということは、まだ家康の中ではどちらを選ぶべきか、揺れているのかもしれない。
三成が進めようとする合議制と、忠次の思いを受けた天下取り。その間で揺れる家康の心情が、巧みな物語構成によって表現されていた。次回、「天下人家康」の予告を見ると、“狸(たぬき)オヤジ”然とした家康の姿と、三成が「徳川殿には、謹慎していただくべきと存ずる」と怒りを込めて語る場面が確認できる。揺れる家康がどのような決断を下し、その場面に至るのか。次回が楽しみだ。
(井上健一)