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「どうする家康」第41回「逆襲の三成」 家康、三成、茶々の二面性が生み出す物語の深み【大河ドラマコラム】

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「どうする家康」。10月29日放送の第41回「逆襲の三成」では、権力を掌握した主人公・徳川家康(松本潤)が政務を執り行う姿と、それに反発する大名たちの動きが描かれた。最終的には家康が会津の上杉景勝(津田寛治)討伐に出陣した隙を突き、隠居していた石田三成(中村七之助)が挙兵。関ケ原の戦いに至る火ぶたが切られた格好だ。

「どうする家康」(C)NHK

 面白いのはこの回、家康と三成、さらに茶々(北川景子)の三者が表と裏の二面性を使い分ける形でドラマが進んでいったことだ。

 まずは家康。大谷吉継(忍成修吾)から、隠居した三成が穏やかに暮らしていることを聞き、「よかった」と安堵(あんど)。上杉討伐に出陣する前には、吉継に「この戦が終わったら、治部(=三成)には政務に戻ってほしいと思っておる」と語り、今も三成を評価していることをうかがわせた。

 ところが出陣前、「上方を留守にすれば、兵を挙げる者がおるかもしれん」と鳥居元忠(音尾琢真)に京の守りを任せた際は、「治部は、損得では動かん。己の信念によって生きておる。負けると分かっていても、立つかもしれん」と、三成の挙兵を念頭に置く用心深さも見せた。

 一方の三成も、訪ねてきた盟友・吉継には「内府殿(=家康)のお力で、天下が静謐(せいひつ)を取り戻すなら、結構なこと」「私は、今の暮らしが性に合っておる」と穏やかに語っている。

 だが、吉継との面会後、家臣の嶋左近(高橋努)が「狸が本性を現し始めておる。子細漏らさず、探ります」と語っていたように、三成は吉継が家康の指示で様子を見に来たことを察しており、家康を信用していないことが明らかになった。そして、まさに家康が予想した通り、上杉討伐に出た隙を突き、挙兵する。

「どうする家康」(C)NHK

 片方がこう言ったから、それに対してもう片方が反応する、という形ではなく、家康と三成が、互いの本音と建前を読み合って物事が進行。それによって、2人が互いをよく知っていること、にもかかわらず、すれ違っている現状が浮き彫りになり、切なさが際立つと共に、物語の深みが増してくる。仮に、家康が三成を信頼していれば、あるいは逆に、三成が黙って家康に従っていれば、違った結果になっていたはずだ。しかし、互いが相手の裏をかこうとしたことで、正面からぶつかることになる。人間の心の機微をすくい取った脚本の妙といえるのではないだろうか。

 そして、この2人のドラマをさらに味わい深くしているのが、その間で巧みに立ち回る茶々の存在だ。家康に上杉討伐をけしかける裏で、三成に金塊を渡して挙兵を促す。かと思えば、三成が挙兵すると、家康に「治部が勝手なことをして、怖くてたまらないから、何とかしてほしい」と手紙を送っている。どちらが勝っても自分が損をしないように、という立ち回り方は、家康以上の狸ぶりだ。しかも、茶々自身が語るわけではなく、その行動から真意が浮かび上がる構成も、“ラスボス”にふさわしい不気味な存在感を際立たせる。

 家康、三成、茶々の本音と建前が交差した物語は、このまま天下分け目の関ヶ原になだれ込んでいくのだろう。その先に、どんな結末が待っているのか。家康と三成の関係を踏まえると、期待半分、切なさ半分という複雑な思いが湧き上がってくる。

(井上健一)

「どうする家康」(C)NHK