昨年秋、パリ市の中心部にあるフランス国立図書館の美しい閲覧室の写真が多数のメディアに掲載され、ネット上でもシェアされて話題になった。14世紀の王室文庫に起源をもつフランスの国立図書館は、ミッテラン元大統領が1990年代にセーヌ川沿いに建てた新館をはじめ、オペラ座やかつての武器庫につくられたアルスナル図書館、南東部のアビニョンにもあるが、「リシュリュー館」と呼ばれるパリのこの図書館は、1721年にマザラン宰相の館に移って以来ここにあり、12年に及ぶ大改修を施して昨年9月に再オープンした。書物や資料の保管場所という役割にとどまらず、閲覧室や美術館、庭園など多くの人が見学ツアーに申し込むほど注目されている。
国立図書館は、どの国でも所在地は限られているし、ひんぱんに足を運ぶ地域の図書館とは趣が異なる。図書館が持つ役割にも特徴がある。その一つが納本制度。国内のすべての出版物を決められた機関に納めることを義務にする制度だ。
世界で最初にこの納本制度を持ったのはフランス。すべての出版物を収集、保存することを目的に当時の王、フランソワ一世が1537年に定めた。時代を経るごとに収集目的物の種類は増え、新聞、雑誌はもちろん、17世紀には版画や地図、18世紀には楽譜、20世紀になると写真や録音、録画、広告、ソフトウェア、データ、2006年にはウェブサイトも収集の対象になっている。この納本制度で昨年1年間に収集されたものの数を見ると、フランスでは例えば本が8万1909冊、定期刊行物19万2806冊、録音1万2693タイトル、ウェブサイト44億と膨大だ。
リシュリュー館には、手稿や版画、写真、貨幣、メダルなどが保管されているほか、「バンド・デシネ」と呼ばれるフランスの漫画8800点や美術書など、一般の書物を含め約2200万点が所蔵されている。“一番人気”の楕円(だえん)形の閲覧室「サル・オーバル」は、高さ約20メートルのガラス天井から自然光が差し込み、16ペアのイオニア式の鉄柱が支える芸術的な空間。周囲を囲むように、4階分の壁の書棚には本がぎっしりだ。一般の人が予約なしに入ることができ、ここにある2万冊を自由に手にとることができる。日本の国立国会図書館だと、利用資格に18歳以上という年齢の規定があるが、サル・オーバルは年齢制限なし。ソファに身を沈めて漫画を読みふける子どもから文学や歴史書、百科事典などさまざまな本を手にとる利用者が160席を埋めている。
ほかにも19世紀につくられ歴史的建造物に指定されている大閲覧室、手稿閲覧室や舞台芸術の資料室と展示スペース、王室文庫時代からの所蔵品を展示する美術館など、建築と展示を見て歩くだけで十分一日が過ぎていく見どころ満載の図書館だ。カフェも併設されていて軽食をとることもできるし、1900㎡の庭園散策も楽しい。
(軍司弘子)