そして、日本中が注目する日本映画3作の行方だが、改めてノミネート作と部門を整理しておくと、以下の通り。
『PERFECT DAYS』国際長編映画賞
『ゴジラ-1.0』視覚効果賞
『君たちはどう生きるか』長編アニメ映画賞
いずれも、他の候補作と比べてもそん色ない良作ぞろい。ひとつずつ状況を確認していきたい。
まずは、『PERFECT DAYS』の国際長編映画賞。最大のライバルと目されるのが、昨年のカンヌ国際映画祭でグランプリに輝いた『関心領域』(5月24日公開)だ。『PERFECT DAYS』も昨年のカンヌで役所広司が男優賞に輝いており、その点では引けを取らない。ただ、『関心領域』は今回、国際長編映画賞だけでなく、作品賞、監督賞など合計5部門にノミネートされている。内容的にもホロコーストを題材にしているだけに、これに勝つのは容易ではないかもしれない。
続いて、『ゴジラ-1.0』の視覚効果賞。他の候補には『GODZILLA ゴジラ』(14)のギャレス・エドワーズ監督と渡辺謙が再びタッグを組んだSF大作『ザ・クリエイター/創造者』、アメコミヒーローものの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』、トム・クルーズ主演のアクション大作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』、巨匠リドリー・スコット監督の歴史劇『ナポレオン』と強力なライバルがそろっている。
2月21日に発表された全米視覚効果協会主催のVESアワードでは『ザ・クリエイター/創造者』が5冠を制してリード。だが、『ゴジラ-1.0』は昨秋の全米ヒットもインパクトがあり、日本映画初ノミネートの同部門で、いきなり受賞する可能性は十分ある。期待も込めて、推していきたい。
最後に『君たちはどう生きるか』の長編アニメ映画賞。宮崎駿監督作品としては、過去に『千と千尋の神隠し』(01)が受賞しているが、今回はその前に『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』という強敵が立ちはだかる。2月18日に発表された“アニメーション界のアカデミー賞”アニー賞でも両作品はしのぎを削ったが、その結果、『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』が長編アニメーション作品賞など7冠に輝き、リードしている。とはいえ、『君たちはどう生きるか』も英国アカデミー賞などを受賞しており、宮崎ブランドも健在。巻き返しに期待したい。
以上、主要6部門と日本作品の予想を整理すると次の通り。
作品賞:『オッペンハイマー』
主演女優賞:『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』リリー・グラッドストーン
主演男優賞:『オッペンハイマー』キリアン・マーフィー
助演女優賞:『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』ダバイン・ジョイ・ランドルフ
助演男優賞:『オッペンハイマー』ロバート・ダウニー・Jr.
監督賞:『オッペンハイマー』クリストファー・ノーラン
『PERFECT DAYS』国際長編映画賞 難しいかも?
『ゴジラ-1.0』視覚効果賞 獲ってほしい!
『君たちはどう生きるか』長編アニメ映画賞 五分五分か?
最後に、これまで名前が出ていない候補作の中から、筆者が個人的に推している作品を挙げておく。作品賞など5部門にノミネートされた『アメリカン・フィクション』(Prime Videoで配信中)は、売れない黒人の作家が、白人がイメージするマイノリティーとしての黒人に成りすまして小説を出版したところ、ベストセラーになってしまうシニカルなコメディー。絶妙な社会風刺がニヤリとさせる良作だ。また、作品賞と脚本賞の2部門で候補になった『パスト ライブス/再会』(4月5日公開)は、少年時代にすれ違ったまま別れた男女の24年後の再会を描いた大人のラブストーリー。これがデビュー作となるセリーヌ・ソン監督の演出も丁寧でみずみずしく、主人公2人の思いがしみじみと伝わってくる。印象的なラストシーンも忘れ難い。以上2作、近日公開も含め、日本でも鑑賞可能なので、ぜひご覧いただきたい。
注目の授賞式は、日本時間3月11日(月)。日本勢の結果と共に、各賞の行方を見届けたい。
(井上健一)