『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(10月4日公開)
近未来、連邦政府から19の州が離脱したアメリカでは、テキサス州とカリフォルニア州の同盟からなる「西部勢力」と政府軍との間で内戦が勃発し、各地で激しい武力衝突が繰り広げられていた。
就任3期目に入った権威主義的な大統領は勝利が近いことをテレビ演説で力強く訴えるが、ワシントンD.C.の陥落は目前に迫っていた。
戦場カメラマンのリー(キルステン・ダンスト)は、ジャーナリストのジョエル(ワグネル・モウラ)とサミー(スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン)、新人カメラマンのジェシー(ケイリー・スピーニー)と共に、14カ月にわたって一度も取材を受けていない大統領に単独インタビューを行うべく、ニューヨークからホワイトハウスを目指して旅に出る。だが、彼らは戦場と化した各地で、内戦の恐怖と狂気を目の当たりにする。
女性型ロボットと青年の恋を描いた『エクス・マキナ』(14)のアレックス・ガーランドが監督・脚本を担当したアクションスリラー。不穏なロードムービーとしての趣もある。
「シビル・ウォー」とは内戦のことだが、アメリカでは南北戦争を意味する。つまりこの映画は“未来の南北戦争”を描いていることになる。そして、現実に起きた連邦議会議事堂襲撃事件やドナルド・トランプの暗殺未遂事件のことを考えると、決して絵空事とは思えないところがある。それ故、銃撃戦のリアリティーも含めて、とても怖い映画だといえる。
また、この映画で描かれた戦場カメラマンやジャーナリストの姿を見ながら、イラク戦争に取材した『Little Birds-イラク戦火の家族たち-』(05)というドキュメンタリー映画を撮った、ビデオジャーナリストの綿井健陽氏にインタビューした時のことを思い出した。
彼は、危険な現場に行く理由を、「今そこで何が起きているのか知りたい、見たい、確かめたい。そして、それを伝えたいということだ」と語っていたが、どこか歯切れが悪く、こちらももやもやとした思いが残ったことを覚えている。
この映画の、ベテランカメラマンのリーが新人のジェシーを教え導くところも、どこかぎこちない。彼女たちもまた自分たちの行動について迷っている節がうかがえる。
この映画がユニークなのは、優れたポリティカル・フィクションであると同時に、そうした戦場ジャーナリズムの矛盾もついているところなのだ。
(田中雄二)