ビジネス

今、気になる上野村 野々村真希 農学博士 連載「口福の源」

世帯を訪問して取り組みを説明

 「モッテコ」という言葉、聞いたことがあるだろうか? 飲食店で食べ残したものを持ち帰ることを指す言葉で、mottECOと書く。食品ロス削減の実践を人々に身近に認知してもらえるようにと、環境省などがつけた愛称である。

 数年前にこのコラムで、セブン&アイ・フードシステムズら4社がデニーズなどでmottECOを導入したと紹介した。けれど、私が働いている大学の学生たちもほとんど知らないし、愛称がついて6年経っても、普及しているとはまだとても言えない状況である。

 しかし昨年、このmottECOの認知度が急上昇した村がある。群馬県上野村である。

 上野村は群馬県の最南端にある、人口1000人ほど、土地のほとんどが森林の小さな山村だ。木質資源の有効活用を進め、2017年には国から「バイオマス産業都市」として選定された。家庭や事業所の生ごみも収集して堆肥化している。全国的に有名というわけではないが、私としては注目すべき村だ。

 20年には「Ueno 5つのゼロ宣言」で「温室効果ガス排出量ゼロ」「食品ロスゼロ」を掲げ、その食品ロスゼロを達成する手段の一つとして、25年に役場が地域ぐるみの「mottECOうえの」プロジェクトに取り組み始めた。

 目的はmottECOの認知を広めること。そのために、村の全ての世帯に取り組みの説明チラシと持ち帰り容器を配布した。チラシは引換券付きで、それを持って対象店舗で合言葉「mottECOうえの」を伝えると、自治体指定ごみ袋がもらえる。加えて高齢者150世帯には、村の社会福祉協議会が直接自宅を訪問してmottECOを説明してまわった。150世帯の自宅訪問ってすごいけど、高齢者の見守りも兼ねた事業だろう。イベントや村のケーブルテレビ、アプリなどでも情報発信を行った。

 これらの結果、村民におけるmottECOの認知度は5%程度から80%近くに上昇した。都市だったら、けっこうなお金をかけて様々な媒体を駆使して周知しても、短期間にキャンペーンの認知度がここまで高まることはまずない。小さな村…おそるべし。

 上野村には観光客も少なくないため、観光客のmottECOの認知を高めることもこのプロジェクトの主要目的の一つである。割引券付きチラシを配布し、観光客は道の駅などでチラシを持って合言葉を伝えると割引を受けられるようにした。

 上野村は飲食店が少なくて、村民は食べ残しの持ち帰りを検討する機会がそもそも少ないかもしれない。観光客も、移動が長いから食べ残しを持ち帰るのは難しそうではある。そういう意味で、上野村とmottECO周知の相性が本当にいいのかどうかは、もう少し見てみたいところではある。

 それでも、小さな村が食品ロス削減の啓発に予想外の力の入れようで、結果、村民間で認知度が爆上がりしたという事実は、聞けばなかなかインパクトがある。このインパクトは、「ふーん、なんかやってるんだね」程度で受け流される取り組みを、「なんかやってる!?」並みの事例に変えてくれる。それが人々の次の行動や自治体の次の政策が生まれるきっかけになる気がして、こっそりと期待を寄せているのである。

野々村真希(ののむら・まき)京都市出身。京都大学農学部卒。農学博士。2019年から東京農業大学勤務。研究内容は食品ロス、食生活など。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.23からの転載】