おでかけ

【スズキナオの高知LOVERインタビュー】第1回 高知が好きすぎて高知本を2冊作ってしまった 大阪の編集者の3冊目の取材で高知に

 3日目の朝、とさでんに乗って高知県立美術館へ。『浜田浄 めぐる 1975-』という展覧会を見る。浜田浄さんは高知県幡多郡黒潮町の出身で、現在88歳だが、今も東京で制作を続けているという。

『浜田浄 めぐる 1975-』を見に行く

 浜田浄さんの作品の根底には黒潮町の入野海岸から見る景色があるという。浜田さんの作品の多くはシンプルな技法で、しかしそれを途方もなく何度も反復することで作られていくようだった。その繰り返しは波が寄せて返すこととか、太陽が昇ってまた落ちてを繰り返すことを連想させた。

 キュレーターの塚本麻莉さんは大阪出身で、高知に移住してきた方。高知県内では最大規模のこの美術館に県内外から幅広い層の観客を呼び込もうと、広い視野を持って展覧会を企画されているそうだ。浜田浄さんの展覧会を若い美大生に見てほしいとおっしゃっていた。「一つのことを地道に続けたらこんなにもすごいものになるのだ」と。

 天気がいいので、帰りは高知県立美術館から歩いてホテルまで引き返すことにした。1時間ほど歩き、ほんの少しだけ土地勘がついてきたような気がした。以前、高知の友人に教わっていって大好きになった「丸吉食堂」でおいしい総菜をつまみに瓶ビールを飲む。

優しい味わいの総菜が最高な店「丸吉食堂」

 2泊3日の取材の最後にと、「Kochi Beer Laboratory」という、ビアスタンドで生ビールを飲む。

丁寧に注いでいただいた「キリン一番搾り」が染みた「Kochi Beer Laboratory」

 飲みながら今回の旅のことを思い返す。取材クルーの藤本さんや竹田さんのように、県外の人だけど高知のことが大好きになって、そのよさを広く知ってほしいと思っている人がいる。「大衆酒場 Day&Sea」のガタリさん、「すさきまちかどギャラリー」の川鍋さん、高知県立美術館の塚本さんのように、県外から高知に移住して、昔からの地元の人と外から来る人とをつなぐような立場の人がいる。そして高知市内にたくさんある老舗や、後免町や須崎のような、中心地を少し外れた場所でずっと続いてきた名店を支えてきた人がいる。さまざまな形で高知に関わる人がいて、その人たちが反応し合って高知の面白さが守られているのではないかと思った。

 私はまだ数回しか高知を旅したことのない初心者だが、今回の取材で、高知のよさを誰かに伝えたくなる藤本さんや竹田さんの気持ちが少しだけわかった気がする。完成した本を、早く友人に見せびらかしたい。

※本記事は、ことさら出版との連携企画です。


スズキナオ(X/tumblr)

1979年生まれ水瓶座・A型。酒と徘徊が趣味の東京生まれ大阪在住のフリーライター。WEBサイト「デイリーポータルZ」「集英社新書プラス」「メシ通」などで執筆中。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーで、ことさら出版からはbutajiとのユニット「遠い街」のCDをリリース。大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』『家から5分の旅館に泊まる』(スタンド・ブックス)、『「それから」の大阪』(集英社)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』(新潮社)、『大阪環状線 降りて歩いて飲んでみる』(インセクツ)。パリッコとの共著に『酒の穴』『酒の穴エクストラプレーン』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)、『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』(スタンド・ブックス)。