人生に魔法をかけてくれるシンガー・ソングライター、吉澤嘉代子(よしざわ・かよこ)さんをご紹介します。私自身、代わり映えのしない日常に彩りが欲しい時に聴いています。
例えば、バカリズムさんが脚本を手がけたテレビドラマ「架空OL日記」の主題歌だった「月曜日戦争」。ドラマの中で、OLたちがお金を出し合って買ったヒーターが壊れるという事件が起こります。その状況を、楽曲では「この星を守ってきたのは いつだってそう ヒーローではなくて ヒーターだったの」と歌います。OLたちのグループLINEを表す歌詞は「液晶の花園で待つ味方の陣」。吉澤さんのフィルターを通せば、何げない日常にもユニークでかわいい魔法がかかり、メルヘンな世界へと様変わりするのです。
ロングヒットしている代表作「残ってる」が描き出すのは、朝帰りした後の乙女心。「改札はよそよそしい顔で 朝帰りを責められた気がした 私はゆうべの服のままで 浮かれたワンピースがまぶしい」。冒頭の短い詞だけでも、朝帰りの罪悪感と、幸せな時間が過ぎ去った後の虚無感が、こちらに伝染してきます。吉澤さんが生み出す歌詞は〝解析班〟ができるほど奥行きが深く、聴き手それぞれの解釈で、思い浮かべる光景が変わるのも、魅力かなと思います。
1990年生まれ、埼玉県川口市の鋳物工場街出身の吉澤さんは、父親の影響で井上陽水さんを聴いて育ち、16歳から作詞作曲を始めました。2010年にヤマハ主催のコンテスト「The 4th Music Revolution JAPAN FINAL」で、グランプリとオーディエンス賞をダブル受賞。14年にメジャーデビューしました。少女時代から魔女に憧れ、その変身願望を原動力にして曲作りをされているそうです。過去にリリースしたミニアルバムのタイトルは「魔女図鑑」「変身少女」「幻倶楽部」「秘密公園」・・・。
メロディーは、昭和歌謡やフォーク、童謡のような懐かしい雰囲気を帯びながらも、現代的で洗練されています。聴いていて、どこか安心感がありつつ、新しい発見もある。予想を裏切る音の跳ねや転調が含まれていることがあり、「次、どこに行くのだろう?」と、良い意味でそわそわします。初めて耳にした時、メロディーやコードが出尽くした感さえある時代に、こんなにもワクワクさせてくれる存在がいるのかと衝撃を受けました。
歌声は、少女のようなあどけなさを感じる時もあれば、成熟した女性の色気が出てくる時もあり、その演じ分けにドキドキさせられます。日常を、キラキラした物語へと変えてくれる楽曲たち。皆さんも魔法をかけられてみてはいかがですか?
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 24からの転載】
山崎あみ(やまざき・あみ)/ 1997年生まれ、東京都出身。音楽大卒。モデル。
interfm(東京)「MUSIClock+」(金曜午前7時)およびJFN制作FM番組「みゅ~じっくろっく」DJ。YouTube番組「山崎あみ『うるおう』リコメンド」(略称うるりこ。共同通信社制作)出演。