NHKで好評放送中の大河ドラマ「豊臣兄弟!」。戦国時代、主人公・豊臣秀長(=小一郎/仲野太賀)が、兄・秀吉(=羽柴秀吉/池松壮亮)を支え、兄弟で天下統一を成し遂げるまでの軌跡を描く物語は快調に進行中。5月17日に放送された第19回「過去からの刺客」では、主君・織田信長(小栗旬)が家督を嫡男・信忠(小関裕太)に譲り、安土城築城を開始、秀吉が上杉攻めに出る中、小一郎には不仲だった妻・慶(吉岡里帆)との関係を大きく変える出来事があった。

以前から謎の男と密会を繰り返していた慶の不審な行動が、戦死した前夫・堀池頼広との間に生まれた息子・与一郎(高木波瑠)の様子を見に行くためだったことが明らかに。それを知った小一郎は、頼広の父・頼昌(奥田瑛二)の元を訪れ、与一郎を養子に迎えたいと願い出る。当初は怒り心頭だった慶や頼昌だが、小一郎の言葉に心動かされ、養子の件を受け入れる。このとき、2人が小一郎の説得に応じるドラマが圧巻だった。
慶は、これまで関係の冷え切っていた自分のため、必死に与一郎を養子に迎えようとする小一郎に、「なぜそこまで?」と疑問をぶつける。それに答える代わりに小一郎は、「ずっとわからんかったんじゃ。なぜそなたは死ななかったのかと。わしは死のうとした。直を失ったときにな」と前置きし、結婚の約束をしながら争いの中で命を落とした直(白石聖)の話を打ち明ける。
「あやつ、わしが万事円満の世を作るんじゃて、親父さんに大口たたいて、有り金一切を賭けたそうじゃ。そんなこと言われたら、どうしたらいいかわからん。わからんけど、わしは死ねなくなった」
続けて慶にこう語りかける。
「そなたにとって、与一郎がそうなのであろう。1人でよう耐えられた。気づいてやれんで、すまんかった」
大切な相手を失ったつらい過去を持つ小一郎にしか語れない思いやりに溢れた言葉だった。その言葉に心動かされた慶は、「与一郎を、抱きしめとうございます」と本心を打ち明け、これまで2人の間に横たわっていた大きな溝が埋まる。
そして翌日、訪ねてきた小一郎に、頼昌は「与一郎は渡さぬ」と養子の件を拒む。そこへ後からやってきた慶は、「それで構いませぬ」と答えた上で「ただ、与一郎に恨みを晴らさせるようなことだけは、もうおやめください」と懇願し、与一郎に織田は憎むべき敵だと教え込んでいた頼昌に、自分の胸中を告白する。

「私は、織田を憎んでまいりました。憎もうとしておりました。でも、傍にいる者たちとかかわるうちに、忘れてしまいそうになるのです。憎しみだけで生きていくのは、あまりにも苦しくて。与一郎には、そんな思いはさせたくありませぬ」
憎しみと争いを繰り返すばかりでは、明るい未来は訪れない。だが、わかっていてもそれを簡単に捨てられないのが人間でもある。それでも、そのつらさを乗り越えた先に未来がある。斬った、斬られたが当たり前だった戦国の世にも、私たちと同じように、つらい別れや憎しみ、再会の喜びがあったことに、改めて気づかせてくれる熱のこもったドラマだった。すべてが決着した後、織田への恨みを捨てることで、ようやく農民として新たな人生を歩み出していく頼昌夫婦の姿も印象的だった。
ただし、それを視聴者に実感させるには、慶や頼昌にとって、頼広がどれほど大切な存在だったのか伝えなければならないが、頼広は劇中には一切登場しない。その不在を補ったのが、吉岡とこの回登場したばかりの奥田の熱演だ。その芝居には、頼広が実在したと思わせるだけの力があった。床の間に大事に飾られていた形見の甲冑(かっちゅう)を乱暴に倒し、「これは頼広などではありませぬ。私たちの頼広は、いつももっと優しく、笑っておりました」と涙を流しながら叫ぶ頼昌の妻・絹役の麻生祐未の言葉も真に迫り、俳優の力を思い知らされた。
脚本家や演出家を始めとするスタッフと実力派の俳優陣が総力を結集し、歴史の一幕にあったかもしれないドラマを作り上げ、当時の人々の生きざまを、現代を生きる私たちに伝える。この回は、そんな大河ドラマらしい人間ドラマの魅力を再認識する機会になったように思う。
(井上健一)










