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「阿部さんがドラムをたたく姿はカッコいいだろう、と」『異動辞令は音楽隊!』内田英治監督【インタビュー】

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-内田作品は、多様性など、現代社会が抱える問題を扱うことが多いですが、その際に現代性を古い価値観と対比させて描く傾向が強いと思います。監督の興味は、問題提起よりもむしろ対比にあるのでは?

 確かに、現代を描きたいという意識はそれほどないかもしれないですね。でも、時代の変化には興味がある。ただし、時代の変化によって起きる社会問題を斬るつもりは全くない。物事の良し悪しや自分の判断を押し付けることが、一番映画的でないと思うから。それでも、自分が社会に対して思っていることがつい台本のせりふになって出てきたりして、テーマになってしまうことはありますし、対比にも確かに興味があります。それは近代ではなくても、家に歴史本があるのでたまに開いて、中世のヨーロッパと現代を対比させて想像したりすることは好きです。人間の何が変わって何が変わらないのかと。

-対比させると分かりやすい、つまりエンタメ性もあるのでは? もう一つ、今回の克服すべき“足で稼ぐ”昭和的な刑事像や、『雨に叫べば』の徒弟制度が残る旧態依然とした撮影現場もきちんと描こうとしています。

 対比は娯楽の要素としては、確かに強いですよね。でも、特に最近は、このテーマを際立たせるために対比させようという意識はあまりない。今は変化の過渡期だから、個人の感情が後回しにされる。善いことと悪いことが決めつけられる時代になってきている気がします。だけど人間って、本来さまざまな感情があるもの。それなのに今は、完璧な善人だけが求められる。善しかない人間なんていないことは誰だって分かっているはずなのに。社会が求めるものと個人の感情がかけ離れている気がするので、それを脚本にしたいという思いは強いです。

-多様性が社会で推奨されていることと、それを自分も受け入れられるかは、別の話ですよね。

 それはアーティストや報道メディアにも言えることですけど、自由に表現できなくなってきているというか、何が本当の多様性なのか誰にも分からなくなってきている気がします。

(取材・文・写真/外山真也)

(C)2022「異動辞令は音楽隊!」製作委員会