数々の映画、ドラマで活躍し、コミカルな役から悪人まで幅広い役柄を演じ、作品にスパイスを加える小日向文世。2月24日から、宮沢りえが主演する舞台「アンナ・カレーニナ」に出演する。ロシア文学の最高峰とも称される、レフ・トルストイの原作をフィリップ・ブリーンが演出する本作は、破滅へと向かう「愛」と希望に満ちた「純愛」を描いた物語だ。宮沢演じるアンナの夫、アレクセイ・カレーニンを演じる小日向に、本作への意気込みや役作りについて、さらには舞台初出演から45年を迎えた俳優人生について聞いた。
-すでに(取材当時)稽古がスタートしたと聞いています。稽古場の様子は?
演出家のフィリップさんのエネルギーやテンションを感じながら稽古をしています。この作品は、もともとは2020年に上演予定だったらしいのですが、コロナの影響を受けて中止になってしまったんです。そして、今、やっと上演できるという状況になったので、そういう意味でも、みんな、思い入れは強いと思います。ただ、上演台本も書いているフィリップさんは、中止になって以降もさらに原作を読み込んで、誰よりも登場人物の心情も理解している。彼の頭の中には作品が出来上がっているんですよ。なので、僕たちは彼の頭の中をいかに具現化していくかという作業を行っています。
-小日向さんが演じるカレーニンという役柄についてはどう感じていますか。
ものすごく誠実で、不運な人だと思います。僕は、彼の心情はよく分かります。これまでの人生、女房に出会うまで何度も捨てられてきたので(笑)。
-そうなんですか。
僕みたいな男は飽きるんでしょうね。危なっかしいところがないので。危険な香りがする人が好きという女性の方が多いんじゃないですか。僕は犬のようにずっと待っているタイプ(笑)。首輪を外しても、遠くに行かずに戻ってくる。だから捨てられるんです。こっちはずっと一緒にいたいのに。まさにカレーニンです。なので、彼のことはすごく理解しやすいです(笑)。
-本作では、「愛」が描かれていますが、小日向さんは「愛」というものについてどう考えていますか。
僕は与える側だと、そうでありたいと思っています。男が女性に求め過ぎると相手は嫌になってしまうと思うんです。どちらかというと、男は我慢をして、合わせることで幸せになっていくことが多いように感じます。長い時間一緒に暮らす夫婦となると、相手のことを尊敬する、感謝する気持ちが大事になるんじゃないかな。その気持ちが心の中にあるだけでも伝わると思うので、常に感謝の気持ちを忘れずにいたいです。
-映像作品でも活躍している小日向さんですが、舞台のどんなところに面白さを感じていますか。
今回の芝居でいうと、ロシアの戯曲でロシア人の役を僕たちが演じるということだと思います。映像では、僕たちはロシア人は演じられないですから(笑)。でも、舞台では人種や年齢関係なくどんな役も演じることができて、日常から離れた世界を生きられる。それが面白さだと思います。ただ、同時に舞台の怖さというものずっと感じています。幕が開くと物語が終わるまで、どんなことがあろうと演じ続けなくてはいけない。たとえ、せりふが出てこなくても何とか乗り越えていかなくてはいけないという怖さは常にあります。もちろん、映像は映像で大変なこともありますよ。ですが、やり直しができないというのは舞台ならではの怖さだと思います。
-劇団に長く所属していて、舞台経験が豊富なので、そうした窮地も乗り越える方法をたくさん持っているのでは?
それが、年を取るごとに舞台へのプレッシャーは大きくなっている気がします。若い頃は、お客さまの前で演じられることがうれしくて、夢中になってやっていましたが、年を取るほど、いろいろなことを考えるようになりました。映像作品で僕を知って、舞台はどうなんだろうと見に来てくださった方に、「退屈だった。つまらない」と思われたくないとか、そういうマイナス思考が入ってきて、みっともない姿を見せたくないと思うからなおさら緊張してしまうんです。