-この時期、ジョンは酒びたりで、精神的にも不安定だったといわれていますが、そんな中で『心の壁、愛の橋』という素晴らしいアルバムができた。何か矛盾している気もするのですが…。
この映画を作った最大の理由はそこにあります。「そんなことはなかった。あの頃ジョンは決して酒びたりなどではなかった」と言いたかったの。あの頃、彼は疎遠だった息子のジュリアンとも会えて普通のお父さんになれたし、エルトン・ジョン、ハリー・ニルソン、ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンや、私がブラザーと呼んでいるポールとリンダ(・マッカートニー)やリンゴ(・スター)ともちゃんと会えた。それでチャートでナンバーワンヒットになったアルバムができた。彼が創造的なことをちゃんとやっていたということを伝えたかったんです。あの頃、ジョンのところにいろんな人が来ていたのはご存じですよね。その中で、デビッド・ボウイとエルトン・ジョンを紹介してくれたのはエリザベス・テイラーでした。
-メイ・パンさんにとって、ジョン・レノンという人は、どういう存在でしたか、また、もしジョンが生きていたら…と考えたりすることはありますか。
この映画の中でも言っていますけど、ジョンから私への最後の言葉は、ケープタウンからの電話で、「また会おうね。絶対にまた連絡するからね」というものでした。だから私は、彼のその言葉を信じてずっと待っています。彼は初恋の人、そしてかけがえのない友達です。
-先頃、ビートルズの最後の新曲として「ナウ・アンド・ゼン」が発表されました。あの曲は、ジョンが自分と関係のあったいろいろな人に向けたメッセージだと思うのですが、メイ・パンさんにとってはどんな感じでしたか。
いろんな取り方があると思うけど、あの曲が1970年代の後半に作られたことが重要だと思います。ジョンが愛した(最初の妻の)シンシア、ヨーコ、そして私も入っているかな。それからポールたちにも向けられたものだと思います。ただ今私が言えることは、ポールとリンゴと、ジョージ(・ハリスン)も含めてですけど、彼らがジョンの声を使ってリリースしてくれたことが本当にうれしいということです。
-最後に、これから映画を見る日本の観客に向けて、メイ・パンさんからメッセージをお願いします。
皆さんが知らなかったいろいろなことが、この映画を見て分かっていただけると思います。ジョンは、シンシアを愛して、ヨーコを愛して、そして私を愛してくれました。彼にはそういういろんな側面があって、一面的ではなく多面的で豊かな人です。ぜひ皆さんも目を見開いて、彼のいろんな面を見てほしい、分かってほしいと思います。
(取材・文/田中雄二)