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シリーズ「持続可能な食~食からエシカル消費を考えてみる」 苫東ファームが持続可能な栽培施設に進化

シリーズ「持続可能な食~食からエシカル消費を考えてみる」 苫東ファームが持続可能な栽培施設に進化 画像1

 気候変動、世界的な人口増加の影響など、私たちの根本である「食」は持続可能なのか——という問題意識は、確実に広がりつつある。こうした中で、企業は持続可能な食のためにどのような取り組みをし、課題解決に取り組んでいるのか。

 消費者がそれぞれに自ら良心的に社会的課題の解決を考える際に、消費活動の参考となる企業の取り組みを紹介する。

 北海道苫小牧市でイチゴを通年出荷する大規模な栽培施設「苫東ファーム」は来年2024年、稼働10年目を迎える。ICT(情報通信技術)を活用した高度な環境制御を行う“次世代園芸施設”として14年スタートしたものの生産量が思ったように伸びずにいたが、北海道庁農政部との定期的な情報交換やさまざまな経営面での工夫により、軌道に乗り始めた。

 会社として「持続可能な食」への関心も高く、11月24日に東京都内で開催されたシンポジウム「持続可能な食~食からエシカル消費を考えてみる~」では、規格外品を活用する新たな取り組みが紹介された。苫東ファーム社長の松井正人氏は「取引先や関係の皆さんに支えていただきながら、引き続き生産量の維持・増加を図り、地元苫小牧や北海道に貢献していきたい」と語る。

食品ロス解決に挑戦

 現在、苫東ファームの最も特徴的な取り組みが、形の整っていない小さな持続可能な食を「SDGs(持続可能な開発目標)品」として販売する食品ロス解決への挑戦だ。本来なら廃棄されるような規格外イチゴを食品スーパーマーケットチェーンの「ヤオコー」(埼玉県川越市)に販売。ヤオコーは苫東ファームの規格外夏イチゴをトッピングした杏仁豆腐を販売するなどしている。

 また、地域の企業と連携し、イチゴの葉や茎など収穫後に残る残渣を地域の牧場で飼育されているヒツジの餌に活用して廃棄処分費用を節約するなど、地域内で廃棄物を再利用する循環型の持続可能な地域づくりに向けた取り組みも新たに始めた。

施設園芸における「試金石」へ

 苫東ファームのイチゴはケーキ用が主力であり、次にスーパーなどに並ぶパック用、残りの約1割はSDGs品や加工食品用向けだ。ほぼすべてを北海道中心に国内で販売する。イチゴの栽培施設としては国内最大規模の4ヘクタールに及ぶ苫東ファームは、農水省の補助事業「次世代施設園芸導入加速化支援事業」に採択され、担い手不足に直面する施設園芸の未来を担う手本として、成功のノウハウを後続事業者に示す役割があり、さらに施設園芸の可能性を広げる前進が期待される。

 イチゴの販路開拓や再生エネルギーの活用など「経営の安定化に向けて検討すべき課題はさまざまある」と松井氏は語る。苫東ファームにおける施設園芸の未来を切り開く「試金石」としての取り組みは今後も続いていく。

建設会社が出資

 苫東ファームに出資するのは、清水建設(東京)をはじめ富士電機や北海道の地元企業など。清水建設は、農林中央金庫(東京)と組んで農業の課題を解決する会社を高知県に19年設立。ニラの出荷作業の機械化に取り組むなど施設園芸分野にも参入している。

 松井氏は22年1月から苫東ファームに赴任した。「清水建設は建築や土木のみならず、多様な分野の人材がいま す。私自身は土木畑の人間ですが、清水建設から一緒に苫東ファームに移った部下は農学部出身です」と松井氏は述べ、多分野の専門家を擁し、現地に送り込める老舗ゼネコンの人財の多様性のおかげだと説明する。

 このような状況の下、前期は、パートさんを含む従業員の努力もあり、イチゴの生産量は伸び、年間販売量としては190トンにまで増加。温度や湿度、日射量、二酸化炭素(CO2)など、イチゴの生育を左右する栽培温室の各種数値はICTで自動制御するものの、気候など日々の微妙な変化に応じた設定値の臨機応変の微調整は、イチゴの一株一株をきめ細かく観察して、時々刻々と変わる最適値を見いだす“人間”を必要とした。

 「栽培環境は自動制御できるといってもイチゴはやはり生きている植物ですから、株や葉など一つ一つのイチゴの状態を、栽培責任者が毎朝見て、温度や湿度、日射量、CO2などの設定状況をイチゴの状態に合わせて必要なら日々変える工夫を重ねました。このようなきめ細かな栽培管理とともに、天候にも恵まれ、生産量が伸びたのではないかと考えています」と松井氏は話す。

省エネの徹底

きめ細かな栽培管理と併せて取り組んだのが、エネルギーの無駄遣いをなくす省エネ。イチゴの通年出荷を目指す以上、北海道の寒い冬であっても栽培温室はイチゴが育つ温度を保たなければならない。エネルギー価格が高騰する中、LPG(液化石油ガス)を燃料とする温室の暖房コストは経営に直結する大きな問題だ。黒字化には「省エネの徹底」が欠かせず、イチゴの栽培に影響しない限界まで温室の温度を下げたり、保温カーテンを1~2重から3重に変えたりするなど、エネルギー投入量を過去の半分程度に抑える省エネを進めた。

この省エネへの取り組みに関して松井氏は「北海道では冬でもケーキや菓子、加工食品などに使う道産イチゴを求めるお客様がたくさんいます。冬の北海道でイチゴを作ることには相応のエネルギーコストがかかりますが、当社として、年間を通じてお客様に道産イチゴを届けることで、多くの方に喜んでいただきたい」と通年出荷の必要性を述べた。