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ウニをめぐる壮大なプラン 中川めぐみ ウオー代表取締役 連載「グリーン&ブルー」

 2月6日、日本の、いや世界の水産業に光を灯(とも)す新たな拠点が岩手県洋野(ひろの)町に誕生した。名称は、「UNI-VERSE Site™ Hirono(ウニバースサイトヒロノ)」。ウニの再生養殖システムを搭載した大規模陸上養殖場で、第1弾となる実証実験棟の落成式が執り行われた。

 養殖場を運営するのは、2年半ほど前に本連載で紹介した北三陸ファクトリーだ。

 ウニといえば“美味(おい)しい食材”というイメージが一般的には強いだろう。しかし近年では磯焼け(沿岸の藻類が著しく減少・消失した状態)の原因としても、世界各地で注目されている。ウニは雑食で、藻類を食い荒らして磯焼けを引き起こすのに、同時にゴミなども食べてしまうため、身入りも味も悪い個体が多発している。

 漁業者やダイバーが海中のウニを間引く活動もあるが、そのほとんどが売り物にならない品質のため、活動費ばかりかかってしまう。

 「間引いたウニを、何とかお金にできないか」。各地で挑戦が続く中、高品質化に成功したのが北三陸ファクトリーだった。北海道大学や各研究機関とともに、約7年の月日をかけてウニの再生養殖システム「UNI-VERSE systems®(ウニバースシステム)」を開発。世界で唯一、ウニ専用の餌・ウニが食べないカゴ・殻を割らずに身入りの状態を計測できる技術など複数の特許を組み合わせたことで、短期再生養殖を実現したのだ。

餌を食べるウニ=北三陸ファクトリー提供

 これによりスカスカだったウニは、2カ月間ほどで身入りが改善。味わいも天然に近く、廃棄代がかかっていた間引きウニが、1個500円相当(市場販売価格)で売れる商品へと生まれ変わった。

 「ウニバースシステムを“海の再生パッケージ”として全国へ横展開していきたい」と、北三陸ファクトリー代表の下苧坪之典(したうつぼ・ゆきのり)氏は語る。

 なぜならこの取り組みは、単にウニを育てて売る商売にとどまらないからだ。海中のウニを適切な量に調整することは磯焼け改善につながり、豊かな海洋環境の再生へと寄与していく。

 ウニバースサイトヒロノではヤンマーホールディングスをはじめ、産官学におけるさまざまな連携を実施。大規模化による生産性向上とコスト構造の最適化にチャレンジし、その成果を日本各地へ、そして世界へと広げていくという。

 壮大なプランに、「私には関係ないこと」と感じた方もいらっしゃるかもしれない。

 しかしこのプランに欠かせないのは、実は私たち生活者だ。どんなに良いウニができたとしても、食べる人がいないと意味がない。つまり、私たち生活者は「美味しいウニを食べるだけで、海洋環境の改善に貢献できる」方法を手に入れたと言えるだろう。

 〝美味しい環境貢献”に参加するのが、今から楽しみでならない。

中川めぐみ(なかがわ・めぐみ)(株)ウオー代表取締役。「釣り・漁業×地域活性」を軸に日本各地で観光コンテンツの企画・PRなどを行う。漁業ライターや水産庁・環境省などの委員も務める。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.10からの転載】